3期ぶりのP-1グランプリは、ブランコ・簪・梱包が競う【88感門】

2025/09/23(火)00:05
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今回の感門之盟で、3期ぶりにP-1グランプリが開催された。P-1グランプリは、[破]のプランニング編集術のお題であるハイパーミュージアムのプランニングの回答の中から、指導陣に選ばれた作品を学衆自身でお披露目し、競い合う場である。

 

今回のP-1に登場したのは、夕刊ちぐはぐ教室(北川周哉師範代・桂大介師範)の佐藤玄さんによるbrand-νseum(ブラン・ニュージアム)、うごめきDD教室(木村昇平師範代・吉田麻子師範)の田中大介さんによる簪ミュージアム―KAZASU―、そして、讃岐兄弟社教室(竹内哲也師範代・小林奈緒師範)の朝比奈励さんによるコンポロジーミュージアムの3作品であった。

 

佐藤さんのbrand-νseumは、「ブランコ」がテーマ。

「ブランコは宇宙の入口である」と佐藤さんは告げ、廃校となった小学校を使ったミュージアムの紹介を開始する。まずは、夕暮れの校庭でブランコに乗り、おさなごころを呼び覚ます。校舎の中では、豊穣祈願などの祈りを揺らす祭具・神具に遡り、振り香炉からモディ首相と習主席のブランコ外交まで、人の営みと結びついてきたブランコの多様な姿が次々と現れる。多様なブランコの揺れがもたらすイリンクス的な眩暈は、私たちを神や宇宙ともつなげていることを実感させるプレゼンテーションだった。

 

田中さんの簪ミュージアム―KAZASU―は、巨大な簪(かんざし)が建物の地下まで貫通しているかたちが印象的な作品。

ミュージアムは簪の軸によって区分された空間で構成されている。田中さんは、華やかな簪を知る「華挿す」空間から、神と接続する「神挿す」空間や、ガンマバーストをモチーフのした簪がある「借挿す」空間まで、様々なKAZASU空間を順に披露していく。簪が細く長い髪を結い、ある形を作りだすように、弱さを切り捨てず、何かに結い上げようとするのが、KAZASpritである。来訪者にそのKAZASpritを受け渡したいと構想されたミュージアムであった。

 

朝比奈励さんのコンポロジーミュージアムのテーマは「梱包」。

朝比奈さんは、梱包という言葉が「固く柔らかく包むこと」という不思議な意味を持つことに着目し、様々な梱包を収集・分類するミュージアムを構想した。プレゼンテーションでは、発見された9つの分類のうち、時間を梱包する砂時計のような包含型梱包、マトリョーシカのような入れ子型梱包、樹木のように年輪に外部環境の記憶が刻まれ、外部と内部が入れ替わるモナド型梱包の3つが紹介された。さらに梱包で世の中のモノゴトを理解することができる概念である「こんぽっしぶる」というニューワードも生まれた作品であった。

 

それぞれのミュージアムのプレゼンテーションでは、聴衆からは時折、唸り声があがった。それは、私たちが普段認識しているブランコ、簪、梱包の概念を超えて、別のモノゴトにつながっていく驚きであり、そのつながりを生み出した編集への称賛でもあり、そこにハイパー的なものを感じた喜びであったのかもしれない。

 

P-1グランプリでは、毎回、突破から感門之盟の短い期間で、学衆と師範代、師範で、回答を大きくブーツストラップして、この日に臨むのだが、今期は、突破までの稽古期間で、かなりプランが練られていたのが特徴的であった。それは、過去期に自らP-1グランプリに関わり、登壇したP-1チルドレンと呼ばれる師範代が、今度は指南する立場でプランニングの稽古を進めてきたからかもしれない。とはいえ、どの案もP-1当日に向け、作品にひそむハイパーを提示するため、ギリギリまで練り込み、組み換え、練習が行われた。このプロセス自体が格別な編集稽古なのだ。

 

審査員を務めた九天玄氣組の中村師範、川崎師範、植田師範が合議によりグランプリに選んだのは、佐藤さんのbrand-νseum。感想を聞かれ、思わず言葉に詰まった佐藤さんの姿が喜びの大きさを感じさせた。中村師範からは、グランプリ作品名とともに、作品の出来栄えは僅差であり、審査員の評価が3つに割れたことが告げられ、川崎師範からは、「ブランコ」の神や宇宙を感じさせる点への評価が語られた。さらに、植田師範からは、より研ぎ澄ますために、プランニング編集の「よもがせわほり」の「よ」である「与件の整理」をもっとしっかりとやった方がよいという辛口のコメントも贈られた。

 

今期のP-1は[破]にとって、また新たな出発点である。この結果を踏まえ、プランニング編集術をより深めるため、指南の方法をいかに編集するかが検討されていくであろう。次回のP-1も楽しみだ。

  • きたはらひでお

    編集的先達:ミハイル・ブルガーコフ
    数々の師範代を送り出してきた花伝所の翁から破の師範の中核へ。創世期からイシスを支え続ける名伯楽。リュックサック通勤とマラソンで稽古を続ける身体編集にも余念がない、書物を愛する読豪で三冊屋エディストでもある。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。