何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

映画『PERFECT DAYS』が異例のロングランを続けている。アノ人も出ている、というので映画館に足を運んだ。
銀幕を観ながらふと、52[破]伝習座の一幕を思い出した。物語編集術の指南準備として、師範代たちに「好きな物語」とそれらを通して見えてくる<わたし>を考えるお題が出された。それを受けて伝習座の場で、岡村豊彦評匠が、「もっとホンモノの作品に触れてほしい」と師範代たちに告げたのだった。
好きな物語として挙げられたのは、『ショーシャンクの空に』『アンタッチャブル』『悪童日記』『ペガーナの神々』『山月記』『水滸伝』などなど。名画もあれば、[破]のアワードお題の課題本や千夜千冊で取り上げられている名作もある。作品の選定は悪くない。
だとすれば、「ホンモノの作品」とはなんだろう・・・そんなことを考えながらの映画鑑賞となった。
『PERFECT DAYS』は、ヴィム・ヴェンダースが監督し、主演の役所広司が第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した映画。昨年12月下旬の公開開始から6カ月ものあいだロングランを続けている(2024年6月18日現在)。
役所広司演じる平山さんは東京・渋谷でトイレ清掃員として働いている。毎日同じ時間に目を覚まし、同じように支度をし、同じように働く。無駄なく布団をたたみ、玄関でガラケー、フィルムカメラ、鍵を決まった順番でポケットに収め、駐車場脇の自動販売機で缶コーヒーを買い、職場の公園のトイレに向かう車の中ではカセットテープでお気に入りの音楽を聴く。同僚のタカシから「どうせすぐに汚れるんだから」と呆れられても、トイレを磨く手を緩めない。
松岡校長の盟友、田中泯がホームレスを演じている。トイレのある公園で、薪を背負って踊るのだが、行き交う人たちの視界には入っていないようである。ホームレスと平山さんにはお互いに対するリスペクトすら感じられる。もしかすると、平山さん以外には見えない存在なのかもしれない。
平山さんは一見、何一つ大きなことはしていない。しかし、祈りにも似た、彼の毅然とした振る舞いは周りに影響を与えずにおかない。平山さんのやっていることは、村上春樹がいう「雪かき仕事」であり、松岡正剛がいう「別様の可能性」をつくる行為のようにも思えてくる・・・
アノ人、翻訳家の柴田元幸の役は、平山さん行きつけのカメラ屋の店主だった。洋楽や翻訳小説を偏愛する平山さんとも重なる味のあるキャスティングである。柴田元幸といえば、海外文学の目利きとして、ポール・オースター、リチャード・パワーズ、レベッカ・ブラウンといった作家の作品を日本に紹介してきた。
彼がそうした作家たちにインタビューする場に立ち会ったことがある。英米文学者らしく念入りな取材ノートをつくりつつも、「あなたとあなたの作品について交わせるのがうれしくてたまらない」と全身で訴える文学青年の姿がそこにあった。
そうなのだ。「ホンモノの作品」とは、作品とその人とのあいだに生まれる関係性のことなのである。『PERFECT DAYS』を観てこの記事を書かずにいられなくなったように、作品を読んでそれについて尋ねずにはいられなくなったように、師範代には、作品を読むことによって生まれたたくさんの<わたし>を語ってほしかったのだ。
52[破]では、物語編集術がはじまっている。好きな作品と<わたし>との格別な関係は指南を変容させずにはおかない。フォースとともに、進め、師範代たち。
白川雅敏
編集的先達:柴田元幸。イシス砂漠を~はぁるばぁると白川らくだがゆきました~ 家族から「あなたはらくだよ」と言われ、自身を「らくだ」に戯画化し、渾名が定着。編集ロードをキャメル、ダンドリ番長。
ISIS now 遊撃するブックウェア●伍のドク:石井梨香師範【89感門】
伍のドク:九天玄氣組プロジェクト Qten Genki Book『九』刊行など 「ISIS now 遊撃するブックウェア」(第89回感門之盟)、コーナーを締める最後のドクは、九州の地、イシス編集学校九州支所 […]
ISIS now 遊撃するブックウェア●肆のドク:仁禮洋子編集長【89感門】
肆のドク:ほんのれんラジオ/多読アレゴリア「ほんのれんクラブ」 「ISIS now 遊撃するブックウェア」(第89回感門之盟)、つづいての登場は、多読アレゴリアにもクラブ進出を果たした、ポッドキャスト「ほん […]
ISIS now 遊撃するブックウェア●参のドク:大音美弥子冊匠【89感門】
参のドク:多読アレゴリア 多読アレゴリアは、身体や終活、音楽、子ども、そして千夜や大河など、多様なテーマや本をもとに編集を進めるイシス独自のクラブ活動。「ISIS now 遊撃するブックウェア」(第89回感 […]
ISIS now 遊撃するブックウェア●弐のドク:太田香保総匠【89感門】
弐のドク:『世界のほうがおもしろすぎた──ゴースト・イン・ザ・ブックス』『Birds』 「ISIS now 遊撃するブックウェア」(第89回感門之盟)で2番目に登場したのは、松岡正剛校長の火を誰よりも苛烈に […]
ISIS now 遊撃するブックウェア●壱のドク:寺平賢司さん【89感門】
壱のドク:『百書繚乱』と千夜千冊絶筆篇 初っ端に放たれたのは、松岡校長の一周忌に合わせて刊行された『百書繚乱』(アルテスパブリッシング)、担当編集を務めた松岡正剛事務所の寺平賢司さんがまき散ら […]
コメント
1~3件/3件
2025-10-02
何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)
2025-09-30
♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。
2025-09-24
初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。