「いじりみよ」にコイをして

2023/11/04(土)13:26
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恋せよ学衆。

 

51[破]はコイの季節である。対象はもちろん編集だ。編集は奥が深い。そこで、51[破]は編集を研究する「コイラボ」を立ち上げた。

 

まず、「いじりみよ研究所」が一部局として開設された。「いじりみよ」とは、開講直後に取り組む基礎的文章術のひとつで、ある物事や事件について論旨を簡潔に組み立てるための型である。

 

い=位置づけ:そのトピックは何か?
じ=状況づけ:その背景にある動向は?
り=理由づけ:それが起きた原因や理由は?
み=見方づけ:理由づけとは異なる、それの大局的な意味は?
よ=予測づけ:今後それはどんな影響を及ぼすのか?
※太田総匠による「いじりみよ」参考記事はコチラ

 

普通の作文にも「いじり」はある。そこに、トピックの本来を探る「み」、さらには、大胆な予測を行う「よ」に至って、単に文章を構成するだけでなく、新しい意味の発見へと向かうのだ。「全イシスが常に携えている方法」とも言われるこの強力な型、「いじりみよ」を探求しようというわけである。

 

「いじりみよ研究所」の立ち上げから回答の研究まで、一手に引き受けたのは、高柳康代・北原ひでお・中村まさとし、の3評匠である。[破]を長きにわたり支えてきた“目利き”師範の評匠が旗振り役となり、学衆たちに別院への「いじりみよ」回答の投稿を呼び掛けた。初の試みにもかかわらず、全学衆の半数近く31人が参加。早くもコイ風邪に罹患したらしい。

 

イシスのお題の回答に正解はない、と言われるが評価も多様、評匠の評価ともなれば別様である。

 

研究員Kこと北原評匠は、「いじり」の事実と「み」の仮説を元に、普段の“限界を超える”推論となる「よ」になっているかアブダクションを注視した。そんな研究員Kのカーソルがとらえたのは、「循環葬」を取り上げた平蔵ひたすら教室SKさんの創文。昨今のサスティナブル指向という表面的な理由のさらに奥にある理由を仮説することで、「循環葬」が葬儀に留まらず“終わることに寛容な価値観”の端緒であるとした新しい見方を称えた。

 

研究員T、高柳評匠が着目したのは、お題の本来をとらえた回答となっているか。「い」の問題提起から「よ」の予測・結論へ、読み手を意識した読みやすいハコビになっていることを重視。ホンロー太夫教室AHさんの「円安」を論じた創文が推しだ。予測づけはありきたりと指摘しながら、複雑な要因をわけてあつめて、歓迎ムードだった円安が生活を脅かすものへ反転した現状を簡潔に表現した手腕を評価。合わせて、遠くのものを近くへ、卑近を遠大へと、論を進める「いじりみよ」の型の力を示した。

 

最後の報告は、いじりみよ研究所生みの親、研究員Mのまさとし評匠から。31回答全体はそれなりに壮観だけれど、個々は心もとないとひとくさり。「位置づけ」が並みにとどまると、「予測づけ」もそれなりにしかならない、とテーマ設定の大切さを説く。そんな中で目を止めたのは、平蔵ひたすら教室TMさんの、師範代の指南を受けずに直接投稿に持ち込んだ回答。粗削りながらも文頭も文末も言い切っていて勢いがあり、意外なメッセージにつながる予感がする、と期待を添えた。

 

研究員K、T、M、三者三様の研究目線で回答を射抜いた。評価の切っ先はめっぽう鋭い。


マラルメ五七五教室TSさんは、「いじりみよ研究所」への回答投稿を終えた際、こう語った。
「具体的な出来事から一気に抽象的な予測づけの高みにまで、ぐーんと駆け上がっていくところがダイナミックで。デーモン(逸脱)を出してジャンプしたいのだけれど、そのためにはそれなりの手順や仕込み(今回の推敲のような)も必要なのだなと感じました(これってコイかしら)。」


評匠が仕掛けたコイの罠に学衆は落ちてしまったようである。

 

さあコイ学衆。次は知文AT賞のエントリー。
締切は11月12日(日)18時、火蓋はすでに切られている。

  • 白川雅敏

    編集的先達:柴田元幸。イシス砂漠を~はぁるばぁると白川らくだがゆきました~ 家族から「あなたはらくだよ」と言われ、自身を「らくだ」に戯画化し、渾名が定着。編集ロードをキャメル、ダンドリ番長。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。