49[破]に第3のアワード誕生

2023/01/08(日)21:16
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[破]に新たなアワードが誕生した。といっても全教室参加の「アリスとテレス賞(AT賞)」ではない。チーム限定の非公式、ローカルなAT賞擬きである。49[破]の2教室、藍染発する教室(古谷奈々師範代)と臨刊アフロール教室(西村慧師範代)が所属する、チームの名を冠したアワード「むちゃりぶれ杯」が開催されたのだ。

 

もともと[破]には2つの公式AT賞がある。文体編集術を活かして本の紹介文を書く「セイゴオ知文術」と、映画を翻案して独自のワールドモデルでストーリーを綴る「物語編集術」だ。

 

このふたつの間に「クロニクル編集術」がある。同時代小説やラーメン、ゲームなどがテーマとなった書籍から1冊を選び、その課題本に掲載されたそれぞれの歴史と、学衆自身の自分史、2つの年表をクロスさせて新たな意味・意義・関係を発見し、将来を仮説する力をものにする編集術だ。

 

[破]の編集術はどれもがハードなのだが、中でも課題本の歴象を抜き出し、かつ、自分史を書き連ね、さらに、その2つの間に関係を見つけねばならないクロニクル編集術は登山にも喩えられる難所とされる。毎期、続く物語編集術の出題日までに回答を終えられず、「物語編集術」AT賞のエントリー後に引き返してくる学衆が多発するほどなのだ。

 

そこで、古谷と西村は一計を案じた。この状況を打破し、学衆が物語編集術に打ち込めるよう策を講じたのだ。それが「むちゃりぶれ杯」なのである。クロニクル編集術での発見・気づきを書く最終お題エッセイをエントリー対象にして、チーム限定のコンテストを開くことにしたのだ。

 

だが、話はそこで終わらない。ねだり上手・肖り上手な両師範代である。エントリーにあたっては、メキシコのプロレス“ルチャリブレ”に肖ったチーム名に因んで、教室名を団体名に改めさせ、それぞれリングネームを付けるよう命じたのだ。

 

これが奏功した。2教室の学衆14名中9人が12月中にクロニクル編集術の稽古を終え、ユニークなリングネームを引っ提げて無事エントリー。そして、年明け1月3日、チームの師範代・師範3人によるプチ講評の“お年玉”を受け取った。以下は、エントリーされた作品の一覧である。エッセイのタイトル、そして、遊びごころあふれるリングネームから、稽古の充実ぶりを感じてほしい。


┌──────────────────────┐
第1回★むちゃりぶれ杯エントリー作品一覧
└──────────────────────┘
・並びはエントリー順です。
・★印に囲まれたアルファベットは団体名で、

AMSは「アイゼン・ムチャッスル」、

RKRは「リンカン・ルチャチャ」を表します。

【エッセイ・タイトル】 【リングネーム】 【課題本・著者】
「地に足を付けて」 フライロール・タケ
(武内一弘)★AMS所属★
『新・民族の世界地図』
21世紀研究会
「となりのマリオ」 パパ・コング
(菅原誠一)★RKR所属★
『僕たちのゲーム史』
さやわか
「世代交代の悪口は進化の徴」 ドリーファンク・リトルタカダ
(高田智英子)★RKR所属★
『岩波新書の歴史』
鹿野政直
「見立てのチカラ」 カルーセル・エル・ドラド
(渡邉裕子)★RKR所属★
『日本映画史110年』
四方田犬彦
「記憶を呼び覚ますもの」 ミル・キーハ・ママノアシ
(平山大介)★RKR所属★
『コンビニチェーン進化史』
梅澤聡
「歴史の私、私の歴史」 ボルケーノ・プルガトリオ
(江口拓宏)★RKR所属★
『転換期の日本へ』
ジョン・W・ダワー、G・マコーマック
「灯台とエンジン」 ヴェスプッチ・ミホ
(岩渕美帆)★AMS所属★
『ラーメンと愛国』
速水健朗
「冒険を恐れるな」 ラ・アマポーラ・オサワ
(大澤実紀)★RKR所属★
『日本の同時代小説』
斎藤美奈子
「愛国も何もあるか」 モハメド・ナシ
(長島純奈)★RKR所属★
『ラーメンと愛国』
速水健朗

 

 

遊びなら師範代も師範も、学衆に負けていない。講評の最後には、プロレス技に因んだ賞が以下の3作品に贈られた。

 


★親子でスピニング・トーホールド賞★
「世代交代の悪口は進化の徴」
ドリーファンク・リトルタカダ(高田智英子)

★不屈のハイフライフロー賞★
「灯台とエンジン」
ヴェスプッチ・ミホ(岩渕美帆)

★行き詰まった時代にドロップキック賞★
「冒険を恐れるな」
ラ・アマポーラ・オサワ(大澤実紀)



ドリーファンク・リトルタカダのエッセイは、課題本の歴史と父親の人生を重ね合わせたもので、「(クロニクル編集術が)父から継承した未熟な魂を発見させた」点を古谷は選考理由とした。

 

型を羅針盤、指南を灯台の灯りとして航海を進めた結果、「ラーメン史と自分史の面白い対や対比模様が浮か」び、「破のタペストリー」に彩りが増したと、西村は稽古模様とエッセイの柄を重ねてヴェスプッチ・ミホの作品を評価。

 

ラ・アマポーラ・オサワへは、「戦後私小説が“航海”によって新境地に達したように、日本も私も冒険をしよう」との、別様の可能性へと向かう覚悟に、白川は賞というエールを贈った。


1月初旬のいま、チームむちゃりぶれの闘士たちは、物語編集の新たな航海に揚々と漕ぎ出している。古谷と西村、両師範代の寒稽古が船の推進力となっているのは言うまでもない。「物語編集術」AT賞という目的地に向かって、編集は止まらないのだ。

  • 白川雅敏

    編集的先達:柴田元幸。イシス砂漠を~はぁるばぁると白川らくだがゆきました~ 家族から「あなたはらくだよ」と言われ、自身を「らくだ」に戯画化し、渾名が定着。編集ロードをキャメル、ダンドリ番長。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。