何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

昨年の今頃、花伝敢談儀に出席できるかと私は悩んでいた。妻が臨月だったのだ。そのとき産まれた娘がもう1歳になる。
少し前まで寝ているだけだったが、いまはもう「ずりばい」をする。まだしっかり四つん這いになれないので、ずりずりとはいはいするのである。動き始めた彼女は好奇心の塊だ。縦横無尽に注意のカーソルを動かし、後先考えず突進していく。そして、いつの間にか周りがものに囲まれたり何かに嵌ったりして動けなくなっている。
おや、林立するテーブルとイスの脚に突っ込んで嵌ったようだ。窮地にいるようにもみえるが、彼女はやすやすと編集して状況を打開する。
まず泣く。とはいっても少々大きめの声での泣き真似だ。これまで動けなくなった既知の状況からアナロジーを働かせ、この未知も対応できるとカマエているのだ。ほら、誰かが近くにやってきた。お次は、じっとみつめる。相手の注意のカーソルをまんまるボディに向けさせるのである。そして、仕上げに手を差し出す。ずりばいの状態から背筋するように思いっきり腕を上げてはアフォーダンスが動かない。脇をあけるだけ、ほんの少し上げるように出す。すると、相手の両手が4本の指を揃え親指を立ててやって来る。手が差し入れにくそうなのでもう少し体をそらしてやる。いい感じに手が丸みを帯びて近づいてきた。微調整、差し込まれたらしっかり脇を絞めておく。視界が上がった。無事抜け出したのだ。ここで終わらせてはいけない。最後に、ニコニコきゃっきゃっとフィードバックしておくのが重要だ。
こうして編集している様子をみると、非言語かつリアルタイムではあるが、乳児が出題をして相手のモデルをリバースし、モデル交換をしながら、抱っこという南に向かって指南しているようである。さらには状況をメタに捉えたときに、抱っこというターゲットに対して直接的に親の足を掴んでねだるというアケではなく、フセて相手に気づいてもらうように庇護欲を刺激しつつ問いかけたような気すらしてくる。あ、だから、林立する脚に毎回嵌っているのか・・・。
そもそも窮地に陥らなければ、好奇心に任せて冒険をしなければ、こんなことは発生しない。親としては何も起きない籠の中に入れておけば平穏が保たれる。だが、柵(ベビーガード)があれば超えていく、危ういところに飛び込むから、学びがあるのだ。動き始めた彼女にとって匍匐前進した先にある世界は常に有事で、日々編集力が磨かれている。自らの足で立つ日もそう遠くはない。一抹の寂しさはあるが、かわいい子には旅をさせよ、である。
花伝所にも自ら立ち歩み始めに差し掛かっている者たちがいる。演習をしてきた師範代のたまごたちだ。錬成・キャンプで殻を破り、師範代認定という孵化を果たした。最後のプログラム敢談儀に向けて、各道場でプレ敢談(守破で言う汁講)が行われ、苦楽をともにした仲間たちと来し方を振り返りつつ、師範代登板という行く末に向けて用意が進められている。
揺籃期も仕舞いである。もう乗り越えるまでもなくそこに柵はない。放伝生となり、幼な心の、好奇心の趣くままに冒険の旅へ向かう。
文 蒔田俊介(花伝師範)
【第39期[ISIS花伝所]関連記事】
師範代にすることに責任を持ちたい:麻人の意気込み【39[花]入伝式】
◎速報◎マスクをはずして「式部」をまとう【39[花]入伝式・深谷もと佳メッセージ】
◎速報◎日本イシス化計画へ花咲かす【39[花]入伝式・田中所長メッセージ】
ステージングを駆け抜けろ!キワで交わる、律動の39[花]ガイダンス。
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
3000を超える記事の中から、イシス編集学校の目利きである当期の師範が「宝物」を発掘し、みなさんにお届けする過去記事レビュー。今回は、編集学校の根幹をなす方法「アナロジー」で発掘! この秋[離]に進む、4人の花伝錬成師 […]
纏うものが変われば、見るものも変わる。師範を纏うと、何がみえるのか。43[花]で今期初めて師範をつとめた、錬成師範・新坂彩子の編集道を、37[花]同期でもある錬成師範・中村裕美が探る。 ――なぜイシス編集学 […]
おにぎりも、お茶漬けも、たらこスパゲッティーも、海苔を添えると美味しくなる。焼き海苔なら色鮮やかにして香りがたつ。感門表授与での師範代メッセージで、55[守]ヤキノリ微塵教室の辻志穂師範代は、卒門を越えた学衆たちにこう問 […]
ここはやっぱり自分の原点のひとつだな。 2024年の秋、イシス編集学校25周年の感門之盟を言祝ぐ「番期同門祭」で司会を務めた久野美奈子は、改めて、そのことを反芻していた。編集の仲間たちとの再会が、編集学校が自分の核で […]
「物語を書きたくて入ったんじゃない……」 52[破]の物語編集術では、霧の中でもがきつづけた彼女。だが、困難な時ほど、めっぽう強い。不足を編集エンジンにできるからだ。彼女の名前は、55[守]カエル・スイッチ教室師範代、 […]
コメント
1~3件/3件
2025-10-02
何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)
2025-09-30
♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。
2025-09-24
初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。