何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

「とんでもない客を乗せちまった」
道場で演習中の花伝生がタクシー運転手なら花伝師範は注文の多い乗客かもしれない。これは師範代養成コース、道場演習の話だ。花伝生は、式目の地図を片手に、一直線に目的地まで走り抜けたいが師範はそれを許してくれない。
「海沿いを走ってくれ」「この辺りの名所は?」「ここはゆっくり見たい」
「そろそろ急いで」「少し戻って」「あっちの道が空いていた」
「なんでここで曲がったの?」「窓を開けて欲しい」「カーブはスムーズに」
「ブレーキはソフトに」「コーヒーブレイクしようか」
注文が次々飛んでくるので、運転手は常に客のことを考えねばならない。読心術、いや3Aをもっと使えたら先手を打つこともできるのだろうが、最初のうちは、ひたすら客に応じながら走るしかない。
36[花]花伝生は課題に追われながら、変移を繰り返す日々を送っている。学衆から師範代に着替えるということは、ホスト側の視点と方法にガラリと変わるため想定以上の負荷がかかる。わかっていたつもりの事が、殆どわかってなかったことに気づき、唖然とすることも度々だ。
花伝生からは、「ゲシュタルト崩壊がおきた」「頭がフリーズした」「迷走している」「短い亀の足がギュルギュル空回りする」と叫び声も響いている。戸惑いや思考の空白は、いつもの自分を手放すための洗礼で、稽古を重ねていくうちに、自己を対象化し再編集をかけるコツをつかむ。世阿弥のいう「離見の見」の境地である。ここまで来れば稽古は苦しさも含めて快感に変わるのだが、渦中の花伝生には、もう少し先のターゲットかもしれない。特にM4(Management)くらい迄は、一人で悶々とするよりも注文の多い乗客と密に交わしながら、複眼的なドライブを続けることだ。
ちなみに今期の乗客である花伝師範の顔ぶれは、fOULのロック魂を宿した岩野範昭、ISIS贈与論にアツイ中村麻人、エディ・ジョーンズ擬きの岡本悟に井村雅代擬きの吉井優子らだ。日夜、花伝生の運転する車にひょいと乗り込み、絶妙な間合いで注文をつける。注文のつけ方に決まりはないが、高いスキルと自在なスタイルが求められる。
私は花目付として時々、花伝師範にもタクシー運転手をしてもらい、自分が乗客になってみる。イメージしているのは、ジャームッシュ映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』のタクシーの乗客、ベアトリス・ダルが演じる全盲女性だ。どんな景色が流れ、何が起きているのか、いちいち師範に描写してもらい、言葉で景色や道場の手触りを感じている。
想像タクシーはかわるがわるつづいていく。
林朝恵
編集的先達:ウディ・アレン。「あいだ」と「らしさ」の相互編集の達人、くすぐりポイントを見つけるとニヤリと笑う。NYへ映画留学後、千人の外国人講師の人事に。花伝所の花目付、倶楽部撮家で撮影・編集とマルチロールで進行中。
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2025-10-02
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