何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

吉原炎上。栄華をほこる街が火の海に消えるという衝撃のシーンで幕を開けた今年の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。
大河ドラマを遊び尽くそう、歴史が生んだドラマから、さらに新しい物語を生み出そう。そんな心意気の多読アレゴリアのクラブ「大河ばっか!」を率いるナビゲーターの筆司(ひつじ、と読みます)の宮前鉄也と相部礼子がめぇめぇと今週のみどころをお届けします。
第1回「ありがた山の寒がらす」
「元気いっぱい」。主人公・蔦屋重三郎(以後、蔦重と省略)を見ていると、そんなフレーズをぺたっと額に貼り付けたくなります。
火事を知らせる半鐘をつき、禿たちが助けたいと言った稲荷をかつぎ(火事場から逃げるのに…)、幼い頃、優しくしてくれた元・花魁、今は落ちぶれた女郎が餓死したことに憤慨して、女郎屋や引手茶屋の主人達の宴席の場に乗り込み、食べていけない女郎たちへの炊き出しを求める。断られると「とにかく吉原に客が戻ればいいんだ!」と思いつき、老中の田沼意次に、吉原以外、つまり許可を受けていない私娼街の取り締まりを働きかける。
そして田沼意次に諭されるわけです。お前は吉原に客が戻るように何か工夫をしているのか、と。これが蔦重が江戸のメディア王、江戸文化のプロデューサーとなる出発点となりました。
燃える吉原もなかなかのものでしたが、目をひいたのは蔦重の幼なじみにして松葉屋の花魁・花の井(演・小芝風花)の花魁道中。
思い出したのが小林恭二『カブキの日』です。歌舞伎の演目「籠釣瓶花街酔醒」は田舎者が吉原の遊女・八ツ橋に一目惚れ、通いつめるものの、結局、八ツ橋に愛想を尽かされ、それを恨んで斬り殺してしまう、というお話。花魁道中のさなかに八ツ橋に微笑みかけられたのが、一目惚れ、恋に、いや沼に落ちた瞬間でした。
『カブキの日』では、こう書かれています。
八ツ橋の艶姿をみた次郎左衛門は忘我の境に達する。
次郎左衛門の恍惚は八ツ橋にも伝わる。
八ツ橋は次郎左衛門にむけて振り返り、にーっと笑みを浮かべる。
この笑いこそ、謹厳実直に生きてきた次郎左衛門の身を破滅させ
る運命の笑みだった。
カブキにはさまざまな笑いがある。ヒーローの笑い、悪人の笑い、
実役の笑い、若衆の笑い、町娘の笑い、赤姫の笑い。それぞれ高度
に様式化されており、所作はもとより表情筋の一本一本に至るまで
計算され尽くしている。
しかし、この八ツ橋の笑いはどれにも属さない不可思議な笑いだ
った。
もちろん、女形が演じる歌舞伎の世界と、本物の女性の笑いとは違うのでしょう。けれど、一方で食べることにもことかく闇の部分を持ちつつ、華やかに彩られる場は「虚構の世界の美」という点で重なるものがあるのではないでしょうか。
あの花の井の笑みが蔦重の生きる世界の一端を象徴しているように感じました。
そして…ドラマで笑みを受け取ったのが、何と鬼平。吉原の遊びのルールを思いっきり無視して…、若き日の鬼平は野暮だったんですねぇ。
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十七
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十六
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大河ばっか組!
多読で楽しむ「大河ばっか!」は大河ドラマの世界を編集工学の視点で楽しむためのクラブ。物語好きな筆司たちが「組!」になって、大河ドラマの「今」を追いかけます。
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べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その三十六(番外編)
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コメント
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2025-10-02
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2025-09-30
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2025-09-24
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