何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、それぞれで読み解く「3×REVIEWS」。
空前の現代短歌ブームといわれて久しい昨今、今回は歌集『世界で一番すばらしい俺』を取り上げます。推薦者はチーム渦メンバー・羽根田月香。たやすく死に向かうように見える若者の言葉をどう拒絶し、嫌悪し、偏愛していったのか。ゲストライター含め総勢5人で挑んだ受容の読書の軌跡を、それぞれが選んだ3首とともにご覧ください。
●●● 3× REVIEWSのルル3条
ツール:『世界で一番すばらしい俺』工藤吉夫歌集(短歌研究社)
ロール:評者 羽根田月香/大濱朋子/長谷川絵里香/吉居奈々/乗峯奈菜絵
ルール:1冊の本を3分割し、それぞれが担当箇所だけを読み解く。
● 1st Review ―羽根田月香
(目次)
校舎・飛び降り
うしろまえ
眠り男
仙台に雪が降る
〈選んだ3首〉
・十七の春に自分の一生に嫌気がさして二十年経つ
・バカにしているのを見やぶられかけて次の細工は丁寧に編む
・3個入りプリンを一人で食べきった強い気持ちが叶えた夢だ
〈返歌〉
「きっと好き」と君がえらんだ本であるまんまと好きで好きで笑った(チーム渦・羽根田)
● 2nd/3rd Review ―大濱朋子/長谷川絵里香
(目次)
魂の転落
黒い歯
ピンクの壁
車にはねられました
この人を追う
〈選んだ3首〉
・風景を見ているつもりの女生徒と風景である俺の目が合う
・腰を打つ 仰向けで 「アア!」「アア!」と言う 道路の上で産まれたみたい
・遠近感狂いはじめて森林が心の奥にあるようである
〈返歌〉
彼方から此方をみてる眼差しはかつての自分落とした「わたし」(チーム渦・大濱)
〈選んだ3首〉
・メガホンを持って応援する者のメガホンの中にある口うごく
・まぶしがる顔といやがっている顔の似ていてオレに向けられたそれ
・うるせえと注意している声だけがオレの耳まで無事たどりつく
〈返歌〉
逆光に立ったオレが眩いと思い返せど三十路過ぎ(チーム渦・長谷川)
● 4th/5th Review ―吉居奈々/乗峯奈菜絵
(目次)
人狼・ぼくは
おもらしクン
まばたき
ぬらっ
すばらしい俺
〈選んだ3首〉
・マーガリンの違いだったら知らねえなマーガリン野郎に訊けばいいだろ!
・この当時オレが笑っていたなんて信じ難いが夏の一枚
・甘口の麻婆豆腐を昼に食い夜に食うただ一度の人生
〈返歌〉
売られてもない喧嘩を買うやつの歌に惚れるの負けな気がする(チーム渦・吉居)
〈選んだ3首〉
・がんばろう?それは地震のやつですか今それオレに言ったんすかね
・赤や白や黄色のチューリップがあって近づけばオレの影で真っ黒
・膝蹴りを暗い野原で受けている世界で一番すばらしい俺
〈返歌〉
立ちすくむ足元に影背に光心の信号どちらが青だ(33花放伝・乗峯)
『世界で一番すばらしい俺』
工藤吉生/短歌研究社/令和2年7月20日発行/1500円
■目次
校舎・飛び降り
うしろまえ
眠り男
仙台に雪が降る
魂の転落
黒い歯
ピンクの壁
車にはねられました
この人を追う
人狼・ぼくは
おもらしクン
まばたき
ぬらっ
すばらしい俺
あとがき
■著者Profile
工藤 吉生(くどう よしお)
1979年千葉県生まれ。宮城県にある通称「黒高」を卒業。30代前半に枡野浩一編『ドラえもん短歌』(小学館)で短歌に興味を持ち、インターネットを中心に短歌を発表し始める。2017年「うしろまえ」(20 首)未来賞受賞。2018年「この人を追う」(30 首)第61回短歌研究新人賞受賞。2020年第一歌集『世界で一番すばらしい俺』(短歌研究社)刊行。2021年『世界で一番すばらしい俺』が、主演:剛力彩芽/監督:山森正志により映画化。2024年第二歌集『沼の夢』(左右社)刊行。アリスという名の愛猫と共に宮城県在住。
●●●3×REVIEWS(三分割書評)を終えて
歌集の扉に「表紙写真/著者」と書かれていたのが気になり、版元に問い合わせた。撮影したのは間違いなく著者で、何を撮ったかは「本人でないと分からない」と素気ない返答があった。あぁ、膝蹴りを受けた野原を撮ったのだな、と思った。それも版元にも伝えずに。歌人川野里子は、現代の短歌に見られる生きづらさには〝外がない〟と評したけれど(短歌研究第76巻)、彼らの言葉の外側に置かれてしまうのは、うかうかしていると我々大人のほうなのかもしれない。(羽根田)
■■■これまでの3× REVIEWS■■■
鷲田清一『つかふ 使用論ノート』×3×REVIEWS(43[花])
前川清治『三枝博音と鎌倉アカデミア』×3×REVIEWS(勝手にアカデミア)
四方田犬彦編『鈴木清順エッセイコレクション』×3×REVIEWS(勝手にアカデミア)
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2025-10-02
何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)
2025-09-30
♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。
2025-09-24
初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。