何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

編集かあさん家では松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前」している。
白鯨とライ麦
町の小説教室に参加した帰り、新しい千夜千冊エディション『方法文学』を買ってきた。
長男が遠めに見て、一瞬松岡校長と見間違えた表紙の顔は、見れば見るほど誰かわからない。近代の作家たちを重ね合わせたものらしいというのは想像できるけど、思い出そうとすればするほど誰の名前も浮かんでこない。
帯の「アメリカ文学から戦後ベストセラーまで」という文句に、「広いな」と一言。
目次を広げて、知ってる本があるか尋ねると、「白鯨」と即答した。去年の物語講座の文叢の一つ、「白鯨大地文叢」のハクゲイという響きが印象に残っていたらしい。もう一つ『ライ麦畑でつかまえて』を指した。少し前、食卓でよく話題に上っていたからだ。
口絵の衝撃
カバーに挟まっていた口絵を注意深く開いてみて、「えっ」。表紙とのギャップに思わず声が出た。
「誰?」と長男。
見覚えがある。けど、思い出せない。クレジットを確認して、また「あっ」と声が出た。村田沙耶香さんなのか。『コンビニ人間』の作者である。
「知ってるの?」と尋ねてくる長男に芥川賞作家の人だと説明する。でも、モデルを務めるようなキャラクターだとは思っていなかった。しかも笑顔と寝顔だ。
ナジャと裸のランチか夢うたた(玄月)
最後のページに、カバー写真についての解説を見つけたので一緒に見る。ハーマン・メルヴィル、シャルル・ボードレール、フランツ・カフカ、サマセット・モーム、D・H・ロレンスの合成であることがわかる。スッキリはしない。ロレンスを見たいのに、ロレンスが遠ざかっていくような、もどかしい感覚が残る。
一番、誰に見えるか問いかけてみる。
「この人の目が一番出てるような気がする」と長男が指したのはボードレール。それとカフカ。「髪型はもう誰のものでもなくなっているな」。
それにしても、村田沙耶香さんである。
長男が学校を離れた主な理由の一つが、心をかき乱す物語文を読むのが苦手であるということだった。発端は宮沢賢治である。小1の『やまなし』はまだいいけど、小5の教科書に載っていた『注文の多い料理店』は「不気味すぎる」。それを何日も授業で聞くことに耐えられなかった。その態度を「人の心がわからない」特性であるという見立てをする人も世の中にはいる。
『コンビニ人間』の主人公は、小さい時から変わり者扱いされながらも国語の授業の時も教室に居つづけただろう。そうしないと両親や妹が嘆き悲しむからである。そして高校、大学と「普通」に進学し、コンビニのアルバイトで生計を立てるようになる。
コンビニ人間失格
長男が授業に無理に参加しつづけて「コンビニ人間」になる道もあったのだろうか。どこが結節点だったのだろう。
堂々めぐりの推論を振り切るように、「文体」といえば「焼きそば」だよねと言うと、本棚から愛読している『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』を出してめくり始めた。
冒頭が太宰治の「焼きそば失格」だ。田中圭一さんの挿絵に添えられている「もし手塚治虫が太宰治を書いたら……」を音読っぽくつぶやきながら、すごいなと唸っている様子を見ていると、口絵の一撃がやわらいできた。いつの間にか本棚には、方法から文学する本が集まり始めていた。
「この村上春樹の『1973年のカップ焼きそば』って元はなんていう作品なの?」と見せてくる。どれどれ、とのぞき込んだ。
『世界名作選Ⅱ 方法文学』。漢字は「件」
『白鯨』(メルヴィル)、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(神田桂一、菊池良)、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(サリンジャー作、村上春樹訳)。『方法文学』をめぐるミニ本棚。
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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2025-10-02
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