Qをめぐらす冒険の書は「科学道100冊」から

2020/05/04(月)10:56
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  この世界では、いろんな問題は、いつもぽつんとじっとしてるわけじゃない。

  べつのさまざまなこととつながりあってるように見える。

                一 『考える練習をしよう』マリリン・バーンズ 一

 

 

 多読ジムでは1カ月ずつ3つのお題に取り組む。
 はじめの1カ月は<ブッククエスト>、本の森を探索する冒険トレーニングだ。
 
 スタジオに届いた課題本から読衆はキーになる3冊選び、さらにその本と関係をつなぐ別の本を探して選び、ブックツリーをこしらえる。一カ月後には、読衆ひとりひとりのオリジナリティあふれる本棚が完成される。

 Season02の課題本は、理化学研究所と編集工学研究所が提携して推進している「科学道100冊」から30冊が選ばれた。湯川秀樹をはじめ中村桂子、ファラデー、牧野富太郎ら科学や植物学、遺伝子工学の先達による本が並ぶ。

 

 書物は単独で読むのではなく、複数の本を同時に読みながら図形のように相関図をつくるというのが松岡正剛の唱える「多読」だ。本を選ぶ過程から、読書を進める道中まで、読衆たちは子どもの頃に抱いていたいくつもの問いを思い出す。それは大人へ成長するにつれて、置き去りにしたものだ。

 10スタジオのひとつ、スタジオこんれんに届いた読衆の疑問や気づきの声を幾つか取り上げる。

  ◆◆

 「音や清潔さ、時間。言われてみれば、これらは誰かがつくったものだと気づかされ、読んでみたくなりました」
   『世界をつくった6つの革命の物語』(スティーブン・ジョンソン/朝日新聞出版)

 「桜でもダンゴムシでも自分の指でも“なんでこんな形なの?”と思いつつ、そのQを放置していた。カタチがもつ秘密を聞き出して読み解いてみたい」

   『植物の形には意味がある』(園池公毅/ベレ出版)

 「各種楽器や歌唱が揃うとなぜ感動するのか、自問自答のヒントにしたい」
   『響きの科学 名曲の秘密から絶対音感まで』(ジョン・パウエル/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
 
 「花の香りをかごうとするけれど、なぜ花が匂うかを意識していませんでした」

   『牧野富太郎 なぜ花は匂うか』(牧野富太郎/平凡社)

 「子どもはなんで実験や観察に夢中になるのか。なぜその気持ちを失ってしまうのかという疑問もあったことに気づきました」
   『タングステンおじさん』(オリヴァー・サックス/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 「科学に苦手意識を持ったのはいつからなんだろう、と振り返りたくなりました」

   『ロウソクの科学』(ファラデー/角川文庫)

 

 

 

 

 scienceという言葉は、理科や化学といった細分化されたジャンルだけを指すのではない。体系化された知識としての科学を指すのだ。『ボタニカル・ライフ』(いとうせいこう)で自然学に触れ、『遺伝子の川』(リチャード・ドーキンス)に命の流れを探る。『ゼロからトースターを作ってみた結果』(トーマス・トウェイツ)ではものづくりの秘話から資本主義の構図へ想起が動き、『昆虫はすごい』(丸山宗利)からは異種の生命体が社会で共生する理由を知りたくなる。
 
 あらゆる情報知を網羅する科学書のなかで読衆はAを探す途中、別のQも見つけていく。コロナ禍で不自由な生活を続ける現在、彼らは本から本へ渡り歩き、知をつなげることで、世界と自分の見方を思い切り自由に転換できる。

 たくさんのQを拾い集めて森を彷徨い歩く、読衆の帰還が待ち遠しい。

 課題リストはご覧の通り。

 

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 『考える練習をしよう』(普及版)マリリン・バーンズ/マーサ・ウェストン:絵/晶文社

 『ドミトリーともきんす』高野文子/中央公論新社 

 『ホワット・イフ? 野球のボールを光速で投げたらどうなるか』ランドール・マンロー/早川書房 

 『思考の整理学』外山滋比古/ちくま文庫

 『自分はバカかもしれないと思ったときに読む本』竹内薫/河出文庫 

 『響きの科学 名曲の秘密から絶対音感まで』ジョン・パウエル/ハヤカワ・ノンフィクション文庫

 『タングステンおじさん』オリヴァー・サックス/ハヤカワ・ノンフィクション文庫

 『昆虫はすごい』丸山宗利/光文社新書

 『牧野富太郎 なぜ花は匂うか』牧野富太郎/平凡社 

 『ボタニカル・ライフ 植物生活』いとうせいこう/新潮文庫

 『あなたの人生の科学』(上下)デイヴィッド・ブルックス/ハヤカワ文庫NF 

 『植物の形には意味がある』園池公毅/ベレ出版 

 『流れ』フィリップ・ボール/ハヤカワ・ノンフィクション文庫 

 『ロウソクの科学』ファラデー/角川文庫 

 『ゼロからトースターを作ってみた結果』トーマス・トウェイツ/新潮文庫

 『科学を生きる 湯川秀樹エッセイ集』湯川秀樹/河出文庫

 『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』多田将/イ-スト・プレス 

 『人間はどこまで耐えられるのか』F.アッシュクロフト/河出文庫

 『「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》』橋本毅彦/講談社学術文庫 

 『ねじとねじ回し』ヴィトルト・リプチンスキ/ハヤカワ文庫NF

 『世界をつくった6つの革命の物語』スティーブン・ジョンソン/朝日新聞出版

 『電気革命』モールス、ファラデー、チューリング、デイヴィッド・ボダニス/新潮文庫

 『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』クリス・アンダーソン/NHK出版

 『触れることの科学 なぜ感じるのかどう感じるのか』デイヴィッド・J・リンデン/河出書房新社

 『遺伝子の川』リチャード・ドーキンス/草思社文庫

 『生命誌とは何か』中村桂子/講談社学術文庫

 『科学は未来をひらく』村上陽一郎・中村桂子・佐藤勝彦ほか/ちくまプリマ―新書

 『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー/NHK出版

 『人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか』池上高志・石黒浩/講談社

 『未来のイヴ』ヴィリエ・ド・リラダン/創元ライブラリ

 

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 <科学道100冊>

 https://kagakudo100.jp/

 

 


 <多読ジム>申し込み情報は下記サイトから。
  https://es.isis.ne.jp/gym

  • 増岡麻子

    編集的先達:野沢尚。リビングデザインセンターOZONEでは展示に、情報工場では書評に編集力を活かす。趣味はぬか漬け。野望は菊地成孔を本楼DJに呼ぶ。惚れっぽく意固地なサーチスト。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。