図像によって湯川思想を仮説する【輪読座 第4輪】

2022/07/31(日)16:01
img JUSTedit

2022年7月最終日。東京豪徳寺へ向かう道すがら、炎天下のアスファルトに陽炎が立つ。いつもの景色がぐらりとゆらぐ。同じ情報も、条件や見方によって、いかようにも動かせことを実感する。

 

輪読座「湯川秀樹を読む」第4輪は、恒例の座衆による図象発表からはじまった。洋の東西の思想を取り込んだ湯川秀樹独自の見方を図像化することで、既存の見方から解き放たれていく。以下、2名の座衆の図像と、輪読師バジラ高橋のコメントを紹介する。

 

ー伊東雄三座衆

「こちら側」を古典論的、「あちら側」を量子論的とし、湯川秀樹がどのようにあちらとこちらを捉えていたかを二点分岐で図式化した。

 

図式化するうちに、湯川秀樹はこちらと向こうを綺麗に二分化するのではなく、向こう側とこちら側とを行ったり来たりするような視点を持っていたのではないかと考えた。

 

ーバジラ高橋

「行ったり来たり」の視点というのは、湯川秀樹が影響を受けた三浦梅園の「反観合一」に近い。

 

ヨーロッパでは地動説か天動説かという時、キリスト教的な世界観に基づいて両方の差異を際立たせているが、本来は座標転換にすぎない。三浦梅園は重なり具合やずれを含めて両方を同時に見えるようにした。湯川も重視したこのような日本人としての見方を取り戻さなければいけない。

 

 

 

ー勝田隼一郎座衆

第3輪ではいろいろな時代と国の登場人物がいたこともあり、場所と時間に分けて人物を配置をした。その上で、黒の矢印でそれぞれ関係づけつつ、湯川秀樹が色濃く影響を受けたと思われるものには青色の矢印で強調をしている。最後に『情報の歴史』に倣い、西洋・日本・中国の特徴についてそれぞれ「超える歴史」「傍流の歴史」「混わる歴史」と見出しをつけた。

 

湯川独自の見方は、アインシュタインやハイゼンベルグといった西洋だけでなく、中国の老荘思想や密教、日本のうた(和歌)などの影響が組み合わさってうまれているのではないかと考えた。

 

ーバジラ高橋

青字の部分に「?」と共に「空」と書いているが、「空」には言語論的にいえば「くう」と「うつ」と二つの意味がある。

 

「くう」とは密教や仏教用語で「ゼロ」があるということ。例えばこの僕がこの席を立って手洗いに行ったとする。その時「高橋は空(くう)じた」という。無くなったわけではなく、認識の中から外れたという見方である。

 

一方、「うつ」とは、ある空間を切り取った状態。「器(うつわ)」という言葉のように、その空間に何かが入ってくる。「うつくしい」というのも「うつ」が語源で、「うつ」が「珍しい」、つまり何かが入ってくることで非常に美しかったり驚く状態になるということを指す。

 

日本人は、一つの器にいろいろなものを取り入れられるうつくしさを本来的に持っている。力学についてもシステム的というよりも、空海のように波動的・量子的に捉えられる見方を元々備えていたように思える。

このように湯川の思想のベースとなっている「東洋」にはどのような方法があったのだろうか。

 

第4輪では「東洋の鋳型を用いる」と題し、中国・インド・アラビアを含む東洋の方法を、湯川秀樹が自らの思想にどのように取り入れたかを輪読していく。

 

【日本哲学シリーズ 輪読座「湯川秀樹を読む」関連記事】

・2022年に湯川秀樹を学ぶ理由【輪読座 第1輪】

・フラジャイルな少年、湯川秀樹は科学の詩を見つけた【輪読座 湯川秀樹を読む 第1輪】

・「新奇性」で湯川秀樹を読む【輪読座 第2輪】

・「反観合一」という方法で湯川秀樹を共読する【輪読座 第3輪】

 

【今後の開催予定】

第5輪:2022年8月28日(日)
第6輪:2022年9月25日(日)

 

※全日程 13:00〜18:00

※開催終了分も動画でキャッチアップいただけます。

※詳細・申込はこちら

  • 上杉公志

    編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。