何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

この講座は受けたかった…。
開発チームの全員が内心そう思っているに違いない。
募集開始早々に”満員御礼”となったイシス編集学校のNEWコース<多読ジム>スペシャル(以下SP)、超人気の第一弾「大澤真幸を読む」。そのキックオフ・レクチャーが昨日10月24日に催された。ゲストの大澤真幸さん、コンサル屋からこんにゃく屋まで多彩なプロフィールを持つおよそ20名の読衆たち、冊師や開発メンバーがZOOM上で一堂に顔を合わせた。
大澤真幸さんといえば、松岡正剛校長の盟友であり、日本を代表する社会学者である。先日、米川青馬多読師範がエディストした記事「【AIDA Season2 第1講 速報!】七巨頭、豪徳寺に会しておおいに問題提起する」を読んでもらえれば分かる通り、Hyper-Editing Platform[AIDA]のボードメンバーも務めている。ちなみに米川多読師範はお題づくりの中心メンバーでありながら、読衆としても参加する。この講座は受けたかった…。いや、このお人は受けてしまった…。自己紹介では「お題のマッチポンプ」を自称していた。
「大澤真幸を読む」の課題図書は、大澤さんのライフワークである『<世界史>の哲学』シリーズ。古代篇から近代篇まで7冊の大著が刊行されており、文芸誌『群像』2020年8月号から「現代篇」の連載も始まった。今回のキックオフ・レクチャーでは、その『<世界史>の哲学』の”読みスジ”について、およそ1時間にわたって熱弁をふるった。
「文明的定数」「歴史の無意識」「歴史の歴史」「歴史の非歴史(歴史化されない残余)」。読みスジのキーワードはこの4つだ。順をおって、それぞれ簡単に解説したい。
①まず、「文明的定数」。これは一言でいえば、「それぞれの文明に蓄積された体質」のこと。例えば、なぜ中国は10億人以上もいる国民を中国という一つの国家でまとめあげることができるのか。それはEUという組織体がなかなかうまくいかないように、ヨーロッパでは不可能なことだ。つまり、文明にはそれぞれ固有の特徴がある。この文明的定数を見誤ると現在目の前で起きているアクチュアルな出来事、世界情勢も理解することはできないだろう。
②次に「歴史の無意識」。この歴史の無意識のイメージをつかむための一例として、大澤さんは「応仁の乱」を挙げた。応仁の乱のことは誰でも知っている。実際にも日本史のターニングポイントだった。にもかかわらず、誰と誰が何のために10年以上も戦ってたのか、その内容を知っている人は少ない。それはなぜなのか。答えは、「歴史の無意識」と「歴史の意識」の間に差があるからだ。つまり、歴史の当事者たちは自分たちがターニングポイントに立っていることを知らないために、実にチマチマした理由で戦っている。勝手な思いや勝手な理由で戦いに参加しているわけだ。だから、僕らの記憶にも残らない。歴史の当事者たちの行動の中にあらわれる無意識を拾い上げていかないと分からないことがある。このように歴史の無意識を解明する、歴史の精神分析が『世界史の哲学』のひとつの目的でもある。
③3つ目は「歴史の歴史」は、歴史についての歴史(あるいは歴史意識)というもの。世界には「歴史にセンシティブな文明」と「歴史に無関心な文明」がある。それはなぜなのか。例えば、中国は司馬遷の『史記』に始まり、かならず王朝に対応する正史があり、きわめて歴史に敏感だ。それは地中海文明も同様で、ユーラシア大陸の東端と西端には歴史にセンシティブな文明がある。一方、大陸の真ん中に位置するインドは、歴史意識の空白地帯と言ってもいいほどに歴史に無関心。だが、インドは決して後進国ではない。文明の発祥地域のひとつであり、文字も数学も哲学も仏教も発祥した。
④そして「歴史の非歴史(歴史化されない残余)」。歴史には歴史化しきれないものが必ずある。それは「歴史化」に抵抗する「残余」の部分であり、それだけを取り出してポジティブに語ることはできない。歴史化することで、ネガとして炙り出すほかない。『<世界史>の哲学』がこれだけ大著になっている理由もここにある。この残余の部分は、歴史の歩みのなかに反復的にあらわれ、次の時代をつくっていく。そのため、「未来の他者」というテーマとも通じている。私たちは、「現在」というコンテクストの中で生きているが、そこにも歴史化できない残余がある。その残余が、実は次の時代からみたとき、「未来の他者」に対する応答につながってくる。
大澤さんは以上の話を一気呵成に語ったうえで、「望むらくは、著者の意図以上のことを読み手が引き出してくれることを期待したい。それが僕にとっても本にとっても幸せなこと。みなさんがどんなふうに読んでくれるか、楽しみでしょうがない」とエールを送った。
* * *
なお、SPコースのスタジオ名と担当冊師は次のとおり。【スタジオ☆ヨーゼフ】の浅羽登志也冊師、【スタジオ◎そらの孔】の加藤めぐみ冊師、【スタジオ◇シン・カオス】の吉野陽子冊師。さらに、イシスのホン・ゴジラこと大音美弥子冊匠が【本房】を取り仕切り、特別お題の「ZOOMセッション」には吉村堅樹林頭、小倉加奈子析匠、代将の金宗代も参加する。全体のマネジメントは、イシスのマツコ松原朋子、そして千夜千冊1784夜で圧倒的ビューティフルな秘蔵写真が大公開(!)されたばかりの木村久美子月匠がダンドリする。
最後に、今回惜しくもSPコースを受講できなかった方々、あるいは、受講はしなかったけれど関心があるという人、大澤真幸ファンなどなどの皆さんのために、SPなイベントをご案内したい。それは、このSPコースの修了式(2021年12月19日)だ。修了式には、受講者、非受講者に関わらず誰でもZOOM参加できる。大澤さんはもちろん松岡正剛校長も登壇する予定だ。
ちなみに、先ほど紹介したSPコースの「ZOOMセッション」は、大澤さんの著作『思考術』(河出書房新社)にもとづいて、思考の「不法侵入」(ジル・ドゥルーズ)を意図的に招き入れるためのトレーニング装置として考案された。「不法侵入」はSPコースのキーワードの一つと言ってもいい。もちろん、ZOOM修了式も思考の不法侵入は大歓迎だが、ZOOM参加そのものは「合法侵入」でご参加願いたい。申込フォームなど詳細はまた後日。
金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:宮崎滔天
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
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コメント
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