何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

マネジメントに悩まないマネージャーなんていない。巷にあふれる本や雑誌がその証左だ。ここ最近は「心理的安全性」という言葉をよく目にする。聞き慣れない言葉が一気に蔓延した。心理的安全性が高まれば、「自分らしく」率直に意見を交わすことができ、生産性の高いチームになるという。そのために、共感・傾聴・承認とたくさんのコーチングスキルを身につけようと励んでいる人も多いのではないか。
イシス編集学校でもマネジメントを学べる場所がある。編集コーチ(師範代)を養成する花伝所だ。[守][破]と呼ばれる基本・応用コースで編集術を学び終えた人々が進む場である。学んだ編集術を、日常・仕事・社会でより実践的に活用できるよう、学ぶから教えるに、わたしからわたしたちに、行うから仕掛けるに、転化・変容・昇華させる。その花伝所が今期、5つの演習テーマの4つ目にあたる「マネジメント」を更新した。この演習では[守][破]コースの教室運営の方法を学ぶ。前期までは指導陣が用意した教室事例を手渡していたが、今期は編集コーチ(師範代)を目指す入伝生自身が出身教室を観察して事例を探すところから演習化した。この探索がマネジメントの学びを躍進させた。入伝生は師範代に「代わって」事例を集め読み解き、新たな物語を編み直した。出題時刻を分単位で並べたり、入伝生同士の教室経験を重ねて相似や相違を発見したり、学んだ経験を教えるモデルへ抽象化したり。たくさんの遭遇が目まぐるしい想像を起こした。手渡された事例では決して起き得ない。教えられた師範代になってみることができないからだ。かつての師範代が企んだことがわかり、ヴェールに覆われていたことが破られ、底に潜めていたことが謎として浮上する。学ぶわたしと教える師範代が、学ぶわたしと学ぶ師範代に変わり、「教えるわたしと学ぶ師範代」へと転移し、連なる。わたしとあなた・学ぶと教えるが不即不離となり、ダブル・ヴィジョンをつかんでゆく。
この学びの過程こそが、花伝所が教えるマネジメントの要訣だ。世の中のマネジメントが「心理的安全性」に注目する今、私は花伝所が提示するマネジメントを「複眼的偶然性」と言ってみたい。率直に意見が言いやすいと感じる「心理的安全性」が高い状況は、安易な答えに走る可能性がある。「自分らしく」を土台にすることで、相手も「自分らしく」で応じ、連環のない一方向の伝達コミュニケーションに陥る。「複眼的偶然性」は、入伝生がかつての師範代になるように、「何かの代わりになる」ことからはじまる。「自分らしく」は邪魔者だ。今のわたしを抱えたまま複眼的に「何かの代わり」になることで、今のわたしでは無知であったことが既知になる。既知が新たな遭遇へ向かい、偶然が未知を拓く。複眼的に無知・既知・未知を往来し、偶然から必然を生み出してゆく。「わたしらしくある」と自らの存在で足場をかためる「心理的安全性」は、その場に内在する「インスピレーション」に気づけない。ダブル・ヴィジョンで「わたしと代わり」を行き来し、現在と過去、刹那と記憶、実と虚を往来する。ウツとウツツを行きつ戻りつウツロヒゆくことで、偶然が創発を起こす。「複眼的偶然性」こそが、関係を動かし、場をイキイキさせる。
今期更新されたマネジメント演習で、入伝生は師範代から贈られていた数々の「問」に気づき「感応」した。すでに「答」になったものも、未だ「答」にならざるものも両方を抱きかかえ、いよいよ最後の演習「メイキング」へ渡る。これまでの全ての演習を総動員し、「複眼的偶然性」で既知から未知へ向かうには、ためらいはご法度だ。機を見逃さず、冒険へ乗り出して、あらゆる偶然を必然化し、師範代へと花開いてゆく。
文 古谷奈々
アイキャッチ 林朝恵
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イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
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2025-10-02
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