38[花]胸騒ぎな「存在のインターフェイス」

2022/11/18(金)14:53
img JUSTedit

 編工研メンバーと一緒に太極拳を習っている。教えてくれる今井秀実先生の動きはため息が出るほど美しい。先生が言うには、太極拳は身体の虚と実を連続させることが一番の大事。「何も考えず頭の中はぼんやり」「まず腰椎を動かして」「軸がずれないように」「お腹は緩めて」と教える。太極拳のすべての型には中国語の名称がついていて原理も明快、ただし身体の部分と全体の動きの虚実がうまく連続しているかどうかは、なぜか他者からしかわからない。だがそこが面白い。

 

師範代にとっての「マネジメント」とは

 今週は「M4マネジメント」の演習である。花伝所では「学びが創発に向かうシステム」のマネジメントを考える。ここからは各道場の錬成師範も指導に加わる。 

 「教室は“生き物”」。M4の総論はこのフレーズではじまる。教室は師範代と学衆が出入りする重力場だ。そこから師範が加わる勧学会、学匠・番匠、期全体のメンバーがいる別院へと接続して、学びの原郷となっていく。
 38花の入伝式では、中村麻人花伝師範が、教室の一座建立が呼ぶ偶然や別様の可能性について、日本の座や結社の方法にかさねて講義した。相互編集の型を「エディティング・モデルの交換」「意味の市場」「情報生態系」の3相で示すと、イシス編集学校が動的、有機的な広がりをもつ情報生命として浮かび上がる。中村師範は、場のなかにいてどう評価をしていくか、師範代としてのカマエを問いかけた。いよいよその本題に入っていく。
 
虚から入る

 入伝式の編集工学講義で、今回はじめて、深谷もと佳花目付と林朝恵花目付が松岡校長にインタビューをした。両花目付が交互に質問して校長の伏せられた編集思想を引き出していく。編集の本質である変化と継承についての質問に応えて、校長は「芭蕉のように虚から入れ」と勧めた。

 

 「俳諧といへども風雅の一筋なれば、姿かたちいやしく作りなすべからず」(去来)なのである。「いやしく」しない。つまり、卑俗を離れたいと、芭蕉は決断したのだった。
 のちに芭蕉は服部土芳に、こう言ったものだった。「乾坤の変は風雅の種なり」(三冊子)と。そして『笈の小文』に、こう書いたものだ。「西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の絵における、利休が茶における、その貫道するもの一なり」と。
千夜千冊991夜 松尾芭蕉『おくのほそ道』より

 

 相互編集の場には、新しい視点や方法を生む可能性がひしめいている。よくわからないけどいいなと思うことや微細なフェチなどフラジャイルななにかによって、場は一気に魅力を帯びる。
 松岡校長は「ぼくは常時を編集状態で埋め尽くしたい」と言う。「その存在のインターフェイス状の境界を<松岡>と呼ぶ」「他者と混じって自分を誰かと区別つかないようにしておくのがコツ」と加えた。

 入伝生たちは、どのようにして虚実皮膜の教室を構想するだろうか。微に入る対話をさかんに起こし続けながら、最後のM5錬成メイキングへ。式目はここからが面白い。

 

文 田中晶子

アイキャッチ 阿久津健

 

【第38期[ISIS花伝所]関連記事】

38[花]一目ぼれの電圧を測る

38[花]フラジャイルな邂逅

38[花]集団の夢・半生の私 編集ニッポンモデルへ

38[花]膜が開く。四色の道場
松岡校長メッセージ「イシスが『稽古』である理由」【38[花]入伝式】

38[花]わかりにくさに怯まない 型と概念と問いのガイダンス

38[花]プレワーク 10の千夜に込められた[花伝所]の設計

  • イシス編集学校 [花伝]チーム

    編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。

  • 発掘!「アナロジー」――当期師範の過去記事レビュー#06

    3000を超える記事の中から、イシス編集学校の目利きである当期の師範が「宝物」を発掘し、みなさんにお届けする過去記事レビュー。今回は、編集学校の根幹をなす方法「アナロジー」で発掘! この秋[離]に進む、4人の花伝錬成師 […]

  • 恋した修行僧――花伝所・師範インタビュー

    纏うものが変われば、見るものも変わる。師範を纏うと、何がみえるのか。43[花]で今期初めて師範をつとめた、錬成師範・新坂彩子の編集道を、37[花]同期でもある錬成師範・中村裕美が探る。   ――なぜイシス編集学 […]

  • 炙られて敲かれた回答は香ばしい【89感門】

    おにぎりも、お茶漬けも、たらこスパゲッティーも、海苔を添えると美味しくなる。焼き海苔なら色鮮やかにして香りがたつ。感門表授与での師範代メッセージで、55[守]ヤキノリ微塵教室の辻志穂師範代は、卒門を越えた学衆たちにこう問 […]

  • しっかりどっぷり浸かりたい【89感門】

    ここはやっぱり自分の原点のひとつだな。  2024年の秋、イシス編集学校25周年の感門之盟を言祝ぐ「番期同門祭」で司会を務めた久野美奈子は、改めて、そのことを反芻していた。編集の仲間たちとの再会が、編集学校が自分の核で […]

  • ノリエ飛びこむ水の音【89感門】

    「物語を書きたくて入ったんじゃない……」  52[破]の物語編集術では、霧の中でもがきつづけた彼女。だが、困難な時ほど、めっぽう強い。不足を編集エンジンにできるからだ。彼女の名前は、55[守]カエル・スイッチ教室師範代、 […]

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。