ノリエ飛びこむ水の音【89感門】

2025/09/20(土)16:37
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「物語を書きたくて入ったんじゃない……」
 52[破]の物語編集術では、霧の中でもがきつづけた彼女。だが、困難な時ほど、めっぽう強い。不足を編集エンジンにできるからだ。彼女の名前は、55[守]カエル・スイッチ教室師範代、加藤則江。強みは、全方位からの共読と拍子のごとく変容に深く感応する力だ。

 加藤は[破]の物語編集術で苦しんだ。自分が書きたい物語を書くのではない。型にそって書く。頭ではわかっているつもりでも、いざ書こうとすると自分が書きたい物語へ回帰した。

 その逡巡を止めるべく、[破]の師範代は「『情報の歴史21』ルーレット」を差し入れた。学衆に好きな数字を書かせ、その数字を『情報の歴史21』のページと照合する。出た年代を強引にワールドモデルと設定することで、「自分が書きたい物語」ではなく、型×偶然という新たな物語が動き出す。
 加藤は叫んだ。「これ以上考えても埒があきそうもないので、ルーレット 223ぺージでお願いします!」
 この叫びは、まさに編集の機、「蛙飛びこむ水の音」だった。

 偶然引きよせた「1870年」という歴史の溝に落ちてみると、昔耳にした「ご先祖様」の記憶が呼び覚まされた。時空間が決まると、場のアーキタイプ、そこに生きづく主人公達があらわれ、物語回路が動きだす。
 主人公ならどう駆ける? どう語る? と想像力の翼を働かせ書き上げた作品は、AT賞講評で福田容子評匠から「モードの息吹に満ちた」作品と評された。

 52[破]から続けざまにザブンと飛び込んだ42[花伝所]での加藤は、制限や欠けていることを編集契機にするカマエと、引き受ける覚悟がダントツだった。ウチとソトに出入りするものを与件にして、異なる意見こそ取り入れる(1870年を取り入れたように!)。そこには「変化」を恐れない加藤の姿があった。
 松岡正剛校長がいうように編集の本質は「変化」だ。

「変わる」ということを感じること、知ること、思えることが、実は編集的に「わかる」ということなのです。(『インタースコア』春秋社 P.277)

 55[守]で師範代をつとめた加藤が見たかった景色はこれではないか。「わたし」という主体を手放し、お題や型の力を信じて違う自分になる。いつだって「変わる」に向かって飛びこむ教室。学衆と共にカエル顔負けで飛び跳ねた加藤は、次も師範代として55[破]という大きな渦に飛びこむ。

 

▲加藤は、師範代スピーチで55[守]全教室名を読み込んでつないでみせた。「よっぽどのご縁でここにいる」と全員へ語りかける。

 

▲加藤の胸には、教室名に肖った「カエル」ブローチが光る。

 

写真/角山祥道

アイキャッチ・文/高田智英子(43[花]錬成師範)

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コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。