千悩千冊0022夜★「野良猫の名前で困っています」 50代男性より

2021/05/12(水)09:27
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だんにゃんさん(50代・男性)のご相談:
野良猫の名前で少し困っています。お隣さんは野良猫に優しく、ご飯など与えています。不妊去勢手術なしにご飯だけ与えるという接し方は、自治体によっては好ましくないと明記されているでしょう。隣の野良猫たちは我が家の小さな庭をトイレ代わりにすることもありますが、ネコたちに説明してもなかなか理解を得ることは難しいので、こちらで処理しています。よく見かける野良猫ですので、親しみも湧きます。あるネコはバーベキューコンロの上でよく寝ているので、「焼きネコ」と読んでいます。子猫の時からときどき我が家の窓のところに来ていたふてぶてしいネコは「安井さん」と名付けました。
ある日、家の近くを歩いていたとき、「焼きネコ」がいたのでうちの子供が名前を呼びました。すると隣の奥さんが語気を荒げて「シーラちゃん!おいで!!」と私たちは少し睨まれてしまいました。子供と今後どんな風に呼びかけようかちょっと考えているところです。私たちは「焼きネコ」を否定されることはないだろうと思っているのですが…。

 

サッショー・ミヤコがお応えします

マンション猫ばかりが増える昨今、なかなかよそ様の猫は触らせてもらえませんが、気楽に往来しながら暮らしている様子、うれしく拝見しました。あちこち気ままに出入りしては好きな場所で餌にありつき、その見返りに好きな名前を人に呼ばせている猫の姿をお手本に、江戸の通人たちは複数の自分をつくりあげ、内なるダイバーシティを発揮する方法を見出したようです(池上英子、田中優子『江戸とアバター』朝日新書参照)。

猫の複数性、時にワープしているとしか思えない同時存在性はほとほと興味深く、サッショーん家の猫なんかも、よくとんでもない彼方にてドッペルゲンガーしています。「焼きネコ」さんも、またすぐバーベキューコンロへ戻ってくるでしょう。「安井さん」が隣の奥さんの旧姓でないことを祈るばかりです。

 

千悩千冊0022夜
ペロー、朝倉朗子訳
『完訳ペロー童話集』(岩波文庫)

 

 「眠れる森の美女」「赤ずきんちゃん」「青ひげ」「長靴をはいた猫」「サンドリヨン(シンデレラ)」「親指小僧」など、わたしたちが絵本や童話で、子供さんたちの世代はアニメやディズニーでおなじみの有名な物語のプロトタイプが収められています。一つずつ読んでいくと、「あれ、オーロラは姫ではなく娘の名前なの?」「赤ずきんちゃんはオオカミにあっさり食われてしまうの?」と、いろいろな疑問が湧いてくるはずです。

 そう。それが物語の遺伝でしばしば起きる「別様」の可能性であり、物語の自由そのものです。もうお判りでしょうが、毎日違う名前を呼ぶ自由だって、わたしたちにはあるのです。万が一にも隣の奥さんに叱られたら、「シイラってハワイではマヒマヒっていうんですよね。強い強いって意味らしいですよ。〈無理強い〉の〈シイ〉なんでしょうか?」とかなんとか、だんにゃんさんが談義する人であることを示してやりましょう。あ、あと気になったのですが、奥さんが気にされてるのは、自分チの飼い猫が「野良猫」扱いされていることじゃないですか、もしかして? 

◉井ノ上シーザー DUST EYE

隣家の奥さんの独善的な性格が気になります。次の新顔の猫に「このやろう」という名前をつけましょう。そして、最高級のキャットフードをこっそりとあげて歓心を買う。隣家の奥さんは「この野郎!」と言われながら、あなたにすり寄っていく猫に価値観がひっくり返り、出家するかもしれません。

 

「千悩千冊」では、みなさまのご相談を受け付け中です。「性別、年代、ご職業、ペンネーム」を添えて、以下のリンクまでお寄せください。

 

  • 井ノ上シーザー

    編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。