何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

[守]の教室から聞こえてくる「声」がある。家庭の中には稽古から漏れ出してくる「音」がある。微かな声と音に耳を澄ませるのは、今秋開講したイシス編集学校の基本コース[守]に、10代の息子を送り込んだ「元師範代の母」だ。
わが子は何かを見つけるだろうか。それよりついて行けるだろうか。母と同じように楽しんでくれるだろうか。不安と期待を両手いっぱいに抱えながら、わが子とわが子の背中越しに見える稽古模様を綴る新連載、題して【元・師範代の母が中学生の息子の編集稽古にじっと耳を澄ませてみた】。第5回目のオノマトペは「うんうん」。母は、ついに汁講へ潜入した。
【うんうん】
首を二度縦に振ってうなずくようす・声。
『「言いたいこと」から引けるオノマトペ辞典』(西谷裕子/東京堂出版)
「そういえば、汁講の案内、来てたよ。リアルかオンラインかって」
「いつなの? 部活なかったら、オンラインで参加しな」
母が話し終わるのをまたずに、長男は食卓を後にした。相変わらず、編集稽古の話を続けさせてくれない態度は変わらない。長男の稽古模様がわからない元・師範代の母だが、そろそろ[守]の編集稽古も折り返し地点であることはわかる。この頃、各教室で企画される汁講について話をしていた。
汁講という名前は、平安後期の京都に生まれた宴会の様式に肖っている。イシス編集学校では、オンライン上の教室でテキストによる、お題 → 回答 → 指南を通して学びを深めている。教室では互いの顔はわからない。テキストだけの学びの別ヴァージョンとして、汁講が行われる。リアルの場で一堂に会し、顔を合わせて編集ワークを楽しむのだ。
「15:00〜17:00だって。お母さんのパソコン貸して」
「なんで?」
「zoomでしょ。僕のパソコン、カメラ付いてないよ」
長男はzoomを初めて使うが、使い方を自分で調べて「できそう」と言っていたので、母は特にレクチャーをしていなかった。長男のパソコンにカメラがついていなかったことにも、気づいていなかった。三者面談はすっぽかされたが、zoom接続のために必要な要素と機能の確認に抜け目のない長男を少し見直す。
当日は、15:00直前までいつものようにゲームをしていた長男だが、zoom会場へ入室すると、急にかしこまる。そこにはzoomホストの石黒好美番匠が待っていた。「よろしくお願いしまーす」と挨拶を済ませ、しばらくするともう一人のzoom参加者の学衆が入室してきた。3名でしばらく談笑が続く。なんだ、13歳、お姉さんたちとちゃんとお話しできているぞ。少し安心し、戸を半開きにしたまま母は廊下へ出た。
今回の汁講は、なんとリアルとオンラインをつなぐハイブリットな汁講だった。元・師範代の母もハイブリット汁講を開催したことがあるが、リアルとオンラインで生まれる温度差をどう編集するかが師範代の腕の見せ所でもある。リアル参加のメンバーは直前まで青熊書店で本を選び、その後カフェにて数台の端末から汁講会場につないだ。注文をとるわちゃわちゃとした楽しい雰囲気が伝わってくる。書店での編集ワークもうまくいったらしい。
さっそく師範代の座回しで自己紹介が始まった。長男は教室の仲間の声に「うんうん」と反応する。時折、仲間が書いた自己紹介の文字を見ようと画面に顔がくっつきそうなほど近づく。知らない言葉が出てくると、パソコンで調べ、さらに大きくうなずく。上手くやってるじゃん。あとは教室の仲間同士楽しんでもらおう。そう思い、母は自分の仕事へ戻ろうとすると、「お母さん」と呼んでくる。
「どーしよー、自己紹介、何も思いうかばん」
はぁ? おぬし、さっき自己紹介は大丈夫ですかって師範代が聞いていた時、うんうんってうなずいていたじゃないか。汁講が始まる直前にも自己紹介ワークが出ていることを確認していたではないか。うんうんというおぬしのうなずきは、自己紹介ワークが何なのかを知っているということだけなのか? いろいろ突っ込みたいのを飲み込み、自己紹介のお題である自分を二点分岐で表現することについて、母目線でいくつかアドバイスをした。しかし長男は、教室の仲間の自己紹介を聞いて、母目線のものではなく普段の自分らしさがより現れる特徴を二点分岐した。
┏━ 崖っぷちのギャンブラー
自分 ━┫ 【特徴】
┗━ マイペースの怠け者
ふぅ〜。なんとか自己紹介は切り抜けたようだぞ。と、安心したのも束の間、今度は何やら本の紹介が始まった。状況が掴めていない長男に、母は小声で声をかける。
「もう一個、お題が出てるんじゃない? 本をプレゼントするとか」
「えーーー」
急いで、勧学会を開く長男。教室っぽい本の紹介というお題を確認すると画面をオフにし、家中の本を探しに行く。めぼしい本を持って戻ってきた長男だったが、納得がいかなかったらしい。ネットでさらに本を探していた。長男の発表の番が回ってくると、仲間がやっていたようにチャットへ本のURLを貼り付けようとする。が、いつもと違うパソコンの操作に思わず、「え、これどうするの」と声がもれた。
「command C」
画面の向こうから声が届く。
長男の焦りをキャッチしたリアル参加の仲間が、何をしようとしているのか察知したのだ。
ハイブリットの汁講の成功の秘訣は、ここにあるのではないだろうか。近くにいるだけでない、遠く離れている相手の状況に思いを寄せることができる。見えない何かを想像する。それはリアルでもオンラインでも変わらない。教室で師範代がやっていることが、教室全体に波及している瞬間を目撃してしまい、母はロールを忘れてときめいてしまった。
2時間に及ぶ汁講はあっという間にすぎていった。zoom会場を退出した長男に、どうだった? と尋ねると「うん」とだけ返ってきた。
「うん」の先に広がる余白が見えたような気がした。
(文)元・師範代の母
◇元・師範代の母が中学生の息子の編集稽古にじっと耳を澄ませてみた◇
#05――うんうん (現在の記事)
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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