【MEditLab×多読ジム】遺伝子からのメッセージ(中原洋子)

2023/04/16(日)08:00
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多読ジム出版社コラボ企画第四弾は、小倉加奈子析匠が主催するMEditLab(順天堂大学STEAM教育研究会)! お題のテーマは「お医者さんに読ませたい三冊」。MEdit Labが編集工学研究所とともに開発したSTEAM教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab-医学にまつわるコトバ・カラダ・ココロワーク」で作成したブックリストから今回のコラボ企画のために厳選した30冊が課題本だ。読衆はここから1冊選び、独自に2冊を加えて三冊セットを作り、レコメンドエッセイ三冊屋(500〜600字)を書く。MEdit賞はいったい誰の手に?

 

 自分らしく生きるというのは、どんな生き方だろう。
 小川糸の小説、『ライオンのおやつ』の主人公、海野雫は、若くして余命を告げられ、瀬戸内の島のホスピス「ライオンの家」にやってきた。積極的治療や延命治療の苦痛はもうこりごりだったのだ。
 ホスピスでは、入居者がリクエストできる「おやつの時間」がある。人生でもう一度食べたい思い出の「おやつ」。雫はなかなか思いつかない。今までずっと、自分より相手の気持ちを優先して生きてきたのである。
 人間には生まれもって備わった自然治癒力がある。しかし、その治癒系が機能不全に陥ってしまうと治療は非常に困難になる。そう警告するのは、『癒す心、治す力』の著者で統合医療の権威、アンドルー・ワイル博士である。癌になる根本的な原因はストレスであり、雫も気づかないところで自分の感情を犠牲にしてきたのだ。
 エッセイ集『科学者の夜想』の著者、ルイス・トマス博士は、「役に立ちたい」という衝動は遺伝子からのメッセージだと語る。全ての生物は、自分の生命を他者のために犠牲にする「利他的行為の遺伝子」を持っている。種の存続のために生物が進化の過程で選択したのだ。他人を思いやる心の奥には、この衝動が潜んでいる。しかし、利他と利己という矛盾を併せ持つのも人間だ。自己愛と利他的行為の遺伝子はバランス良く使いたい。それを踏まえたうえで自分らしく生きたいと思う。

 

Info


⊕アイキャッチ画像⊕
∈『ライオンのおやつ』小川糸/ポプラ文庫
∈『癒す心、治る力』アンドルー・ワイル/角川文庫
∈『科学者の夜想』ルイス・トマス/地人書館

⊕多読ジムSeason13・冬⊕
∈選本テーマ:お医者さんに読ませたい三冊
∈スタジオみみっく(畑本浩伸冊師)

  • 中原洋子

    編集的先達:ルイ・アームストロング。リアルでの編集ワークショップや企業研修もその美声で軽やかにこなす軽井沢在住のジャズシンガー。渋谷のビストロで週一で占星術師をやっていたという経歴をもつ。次なる野望は『声に出して歌いたい日本文学』のジャズ歌い。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。