何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
荒井理恵さんが編集学校の応用コース[破]を終えたのは、2018年の夏のこと。結婚、出産を経、生活も変わったが、子供とのやりとりの中で、「編集の型」と出会いなおしたという。
イシス受講生がその先の編集的日常を語るエッセイシリーズ、「ISIS wave」の第24回は「母」の目線で切り取った「子どもとの日常」を荒井さんが活写します。
■■2歳半の娘との編集的対話
この世界に言葉が存在すると知ってから、娘は毎日「なあに」の雨を降らせている。にわか雨や、どしゃ降り、時雨のようなときもある。
1歳の頃は「これなあに」「それなあに」と目の前のモノの名前をポツリポツリと聞いていた。その度に「これはイチゴだよ」、「あれは救急車だよ」と答えていた。2歳半を過ぎてから語彙が急速に増え、質問はモノからコトへ広がっていく。「〇〇ってなに?」と意味を問うようにもなった。
――朝ってなに?
――明後日ってなに?
――上ってなに?
――行くってなに?
――空気ってなに?
――追い越し禁止ってなに?
――こだわりってなに?
――ゆきはこんこんってなに?
「それは…」と答えようとするが口ごもる。何度となく読み、書き、発してきた言葉をなかなか言い表せない。「なに、なに、なにー!」が止まない娘に迫られ、えーとうーんとうなっていると、編集の型がいるとふと気づいた。辞書の定義のような《コンパイル(編纂)》と自由に類推・想像する《エディット(編集)》だ。誰にでも通じる解釈を、2歳半の子に向けた答えに変換してみる。言葉の要素・属性・機能に目をこらし、あれこれ説明の着せかえをする。
――「朝」はお日さまがのぼって明るくなるときだよ
――「明後日」は寝て起きて、もういっかい寝て起きたらくるよ
――「上」は空のあるほうだよ
――「行く」はここからあのいすまで歩くってことだよ
――「空気」はみえないけどいっしょにいるものだよ
――「追い越し禁止」は追い越しが禁止、ではなくて並んで進もうねってことだよ
――「こだわり」は、今日はあのスカートがはきたい!ってことだよ
――「ゆきはこんこん」は、雪がこんこん降るってこと…こんこんってなんだ?
私の頭の中にも「なに」が降ってきた。調べると、童謡『ゆき』の歌詞は“雪やこんこ”で、“こんこ”の語源は来ん来、来い来いとされている。雪よ来いと囃す歌なのだ。
「なに」を追うと、自分が言葉をあいまいなまま使っていて、本当はわかっていなかったことがわかる。そして言葉の由来や類語を知りコンパイルすれば、意味のシソーラスが広がり、見方もエディットも変わっていく。
――「ゆきやこんこ」は、雪、降れ降れって呼んでるんだよ。たのしそうだね!
「エディティングは表現も思索も含んだ知の行為の進行形」という『知の編集術』の一文は、娘の「なあに」で初めて実感できた。子供ひとりにひとこと伝える。ちいさなことのなかにも編集がある。
[守]で学んだのは、いつでもそこにいる型。[破]で見つけたのは、世界の何もかもを自由に扱える手段。編集学校に入門して6年が過ぎ、結婚、出産、退職と日常は大きく動いた。関わる人・求める情報・向き合う問題も変わった。だが、編集の方法たちは今も変わらず、たのしそうな方へ手をひいてくれる。
娘は私の答えをじっくり聞くときもあれば、気にもとめずよそへ行ってしまうときもある。3歳を迎える娘の記憶からは、ほとんど消えてゆくだろう。それでも、たくさん降った「なあに」の雨が娘の言葉を育ててくれたらいい。単語を採集し、イメージを捕まえ、意味の図譜をつくる。言葉の森で遊ぶ娘の姿を、私は夢想している。
▲「なあに」は雨のように降ってくる。写真は「なあに」の主だ。
文・写真/荒井理恵(40[守]カイトウついつい教室、40[破]リテラル本舗教室)
編集協力/阿曽祐子
編集/角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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