ジャイアンは教室とともに――46[守]新師範代登板記 ♯5

2020/11/20(金)09:53
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 開講から4週間経とうとしている。
「師範代になって何が変わったか」とたびたび聞かれるのだが、期待される答えを返せたためしがない。聞く側は「世界の捉え方が変わった」的な答えを待っているのだろうが、ジャイアンに何を期待するのか。自信をもって「変わった」といえるのは、喜怒哀楽が豊かになったということぐらいだ。

 

「回答はラブレターである」とは以前書いたが、実際、中身の一言一句に心が揺さぶられる。アフォードされるとかそんなたいそうな話じゃない。例えば「こんにちは」が「こんにちは!」に変わっただけでガッツポーズものなのだ。緊張が高かった学衆の回答に「^^」を見つけただけで泣けてくる。
 回答だけを送ってきた学衆に挨拶文が入っていたら赤飯ものだし、挨拶文の中に指南の感想や他の学衆への言及があった日にはシャンパンタワーである。

 

 学衆諸君。
 師範代を喜ばすのは簡単である。回答を期日まで送り、そこに挨拶文をつけてやればいい。「今日は寒いですね」の一文が嬉しいのだ。指南感想を添えた日には、パソコンの向こうで嗚咽しているはずだ。

 

 師範代は指南以外にも気を配る。<勧学会>という自由広場が用意されているからだ。設えや利用方法は、師範代任せ。自由度が高い分、悩みも多い。<教室>の動きから「機」を捉え、<勧学会>にスレッドを立ち上げるのだが、これがなかなか難しい。
 角道ジャイアン教室では、004番の「地と図」出題にあわせて、<勧学会>に「[001番まとめ指南]コップを【地と図】で解いてみたら?」を投げ込んだ。みなさんが取り組んだコップのお題は、【地と図】で捉え直すことができますよ、という渾身のコンテンツだ。学衆9人分の回答を並べ直し、新たな意味で読み解いた。
 ところが反応がない。読んでいるかもわからない。黒歴史になりつつあった11日後、「まとめ指南を見過ごしていました!」という学衆からの反応があった。もちろん滂沱のナミダである。
 続く内容もまた、ガッツポーズ20連発モノだったのだが、その中に質問が差し込まれていた(質問されるのもこれまた嬉しい)。

 

「師範代はイシスに一日でどのくらいの時間を使っていますか?」

 

「仕事とプライベートでどうしても外せない時間以外は、基本的に教室とともにある、という感じですね」
 フォースとともにある、みたいにカッコつけて返答したが、しかしこれでは答えになっていない。
 1週間の行動を振り返ってみる。
 平日(11月9~13日)5日間で指南14本。イシスにかけた時間は17時間。土日(14~15日)は指南11本、彩指南3本。時間は12時間。平らにすると、週28指南、計29時間である。
 仲間の師範代に聞いてみる。イシスにかける時間は1日平均4~5時間だという。この時間を捻出するために、「読書時間を削った」「寝る時間を減らした」という声が返ってきた。
 ある女性師範代からはこんな返答も。
「化粧するのやめるか? ドライヤーかけるのやめるか? って思うときがある」
 ではそれが辛いのか、といえばそんなことはない。何しろジャイアンのリサイタルを待ってくれている学衆がいるのだ。
 最近はベッドの中で、学衆のことを考えるのが日課である。名を唱え、その学衆の特徴を思い返す。9人全員終えると心地好い睡眠が待っている。

 

 教室は「喜怒哀楽」の「喜」「楽」中心である。回答が滞っている学衆の心情を思い、「哀」もまた浮かぶ。

 さすがに「怒」はないだろうと高をくくっていたら、最近あった。
 ジャイアンのライバル[週刊花目付]の「ホドがある。」だ。花伝所で学んだジャイアンは、記事のいうところの「ISIS版セイバーメトリクス」の俎上にのせられた一人だが、「無駄話にはホドがある」の一文に目が止まった。「冗長度」(いわゆる回答以外のムダ話)の「程」の範囲は、「概ね45%±15%」だとある。花伝所での修行中に突然、師範から数字を突きつけられ、「冗長度90.9%」と判定されていたジャイアンの立場は! 

 

 ボーダーシャツを腕まくりしていると、あの胸声が聞こえてきた気がした。
 あなた、この連載自体が壮大な無駄話なんじゃないの?

(2020.11.20)

 

◆バックナンバー

ああ、それでもジャイアンは歌う――46[守]新師範代登板記 ♯1
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▲ジャイアン師範代の「脳内メーカー」(思い込み的自主製作)

  • 角山祥道

    編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama

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コメント

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