何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

10月26日、ジャイアンの長い一日が始まった。
この日は46[守]の開講日だった。前日までに教室や勧学会の設えを整え、開講準備セットをアップした。
実はこの時点で、33花同期の猛者からは、「きんちょーーーーする」という声が挙がった。誰の手も借りず「場」を整えるのだ。悩みは尽きない。
当日、朝3時44分に目が覚める。開講はお昼なのでやることはないのだが、もう一度、001番のコップのお題をチェックする。朝の雑事をこなし、溜まっている仕事を片付ける。なかなか集中できない。
11時31分、校長のメッセージが教室に流れる。
《いよいよ「守」が始まります。ここから諸君の「世界と自分についての見方」がおそらく劇的に変わるでしょう。それは私が保証する》
きっと師範代も劇的に変わるに違いない。それを信じよう。
12時ちょうど。学林局からの点呼が始まった。ジャイアンは昼飯を抜いて、パソコンの前にかじりついた。本当に点呼に応えてくれるだろうか。
トップバッターは12時29分。来た! 4分後、「祝・入門&祝・第一声」の返信を送る。ジャイアンの鼓動は高鳴ったままだ。
13時までに5人の学衆から応答があった。学衆の一人は、師範代からの「ようこそ」に返信までくれた。
よし、ここだ。
13時17分に出題スケジュールを投稿。その8分後に、001番のお題を出題する。
《まずは発声練習のつもりで、 \あ~~~~~/ と声を出すことを楽しんでください》
と、ノリは「おかあさんといっしょ」の歌のお兄さんである。はたしてこの声は、学衆に届くのか。
14時30分。ほぼ1時間後に、最初の回答が届く。
守の時の師範代の声が甦る。姫路城を眺めて暮らす理系の師範代は、こう言ったのだ。
「最初の指南ですか? 書く時は手汗が止まらなかったですね」
辻井貴之師範代どの、あなたの言っていたことは本当でした……
集中しろ、集中だ。全集中の呼吸だ!
もちろん、「守の呼吸 壱ノ型 コップ切り」が飛び出るわけではない。こんなことを口にしても緊張が増しただけだった。
こんな時は、方法に戻るしかない。お題を読み返す。
コップをひとつの「情報」として捉え、できるだけたくさんのコップをあげる。これがお題だ。そのためには、コップの素材や形に着目したり、誰が、何を、どうした、という主語や動詞を動かしていく必要がある。
ん? 主語を動かす?
ジャイアンは朝から(正確にいうならその前日から)「緊張する」という言葉を発し続けていた。この主語は誰だ?
わたしは、緊張する。
紛れもなく「わたし」ではないか。
鳥の目になって、主語をズラしてみる。
学衆は、緊張する。
コップの中に答えはあった。学衆こそが与件だった。
そうだ、「わたし」をズラしてしまえばいいのだ。自ずからやるべきことが見えてきた。ただ、回答にアフォードすればいいのだ。学衆に寄り添えばいいのだ。学衆の緊張をほぐすのは、師範代の言葉=指南ではないか。
出題から135分後の15時39分、最初の指南を返す。
もう緊張はない。その日届いた4本の回答に、その日のうちに指南を返した。コップにビールが入っていればゴクゴク飲み干し、ポッキーが入っていればポリポリ食べた。思いも寄らぬ回答に「おおっ!」と声をあげ続けた。
もう緊張していた「わたし」はいない。「型」というひみつ道具を手にしたジャイアンいう名の師範代が、9人の学衆と遊んでいるだけだった。
(2020.10.30)
◆バックナンバー
ああ、それでもジャイアンは歌う――46[守]新師範代登板記 ♯1
ジャイアン、恋文を請い願う――46[守]新師範代登板記 ♯2
ジャイアンの教室名 ――46[守]新師範代登板記 ♯4
ジャイアンは教室とともに――46[守]新師範代登板記 ♯5
ジャイアンの1週間――46[守]新師範代登板記 ♯6
ジャイアン、祭の後――46[守]新師範代登板記 ♯7
ジャイアンの聞く力――46[守]新師範代登板記 ♯8
▲教室で初回答する気持ちをコップ&ペンギンで表現。「初めて」の勇気に拍手を贈りたい。
角山祥道
編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama
褒められるわけでもない。報酬が出るわけでもない。目立つわけでもない。打ち合わせは連日で、当日は朝から現地入り。 だからなのか、だからこそなのか、「感門団」は感門之盟の華であります。江戸に火消しがつきもののように、感門之盟 […]
いったい誰が気づいたか。この男が、感門之盟の途中でお色直しをしていたことを。 司会の2人が、感門テーマの「遊撃ブックウェア」にちなんで、本を纏ったことは当日、明かされたが、青井隼人師範には「つづき」があった。イシスの […]
壇上に登ればスポットが当たる。マイクを握れば注目が集まる。表舞台は、感門之盟の華だ。だが表があれば裏がある。光があれば影もある。壇上の輝きの裏側には、人知れない「汗」があった。 第88回感門之盟(9月6日)は、各講座 […]
アフ感会場で、板垣美玲がショックを口にした。 「今井師範代が来ていたなんて、気づきませんでした」 今井師範代とは、JUST記者の今井早智のことである。果敢に林頭を取り上げたあの今井だ。師範代と学衆の関係だった今井と板 […]
世の中はスコアに溢れている。 小学校に入れば「通知表」という名のスコアを渡される。スポーツも遊びもスコアがつきものだ。勤務評定もスコアなら、楽譜もスコア。健康診断記録や会議の発言録もスコアといえる。私たちのスマホやP […]
コメント
1~3件/3件
2025-10-02
何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)
2025-09-30
♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。
2025-09-24
初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。