赤い袋がつなぐ宴と縁【89感門】

2025/09/28(日)12:00
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 本たちが赤い巾着袋を纏い、人の間を回遊した。


 金魚は水温が熱くても冷たくても動かない。定期的に水を換えることも必要だ。飲み会も同じこと。人流はしばらくすると滞り、いつもの面々での語らいが繰り広げられる。もうひと渦巻き起こしたいと、55[守]アフ感ではインターブッキングが企画された。第88、89回感門之盟のタイトル、「遊撃ブックウェア」に肖り、本で人をつなぐことを目論む。


 9月20日、第89回感門之盟の熱気もそのままに総勢77名が新宿に集った。参加者は「遊な本」を持ち寄り、本を巾着袋に入れ、会場入り口で別の袋と交換する。忘れてはいけない。ルールが一つだけある。決して袋の中身をのぞいてはいけない。全員揃ってから一斉に中身を見るところまでが今宵の趣向だ。


 4ヶ月の稽古をともにした学衆が師範代を囲み、手にした赤い巾着を忘れたかのように対話に興じる。酔いも語らいも一巡りした頃合いに司会の北條玲子師範と阿久津健師範が合図を出し、伏せられた本たちが紐解かれた。77名がいちどきに赤い袋から本を取り出し、童心に返った歓声と嘆声があがる。


 手にした本を見せ合う中で問いも生まれた。自分の本がどこに向かったのか。手元に届いた本の持ち主は誰だったのか。自ずとアフ感会場に新しい関係線が引かれ始める。本に書き込んだメッセージをトリガーに記憶が紐解かれたと思えば、記名がない本の送り主を探す声も響く。本はただの贈り物ではない。送り主の記憶も微かに残っているかと思えば、本を交えた対話が思いもしない見方をもたらすこともある。


 回遊から出遊へ。アフ感の幕が閉じ、赤い巾着に包まれた77冊がそれぞれの新しい持ち主とともに家路に着いた。宴は終わっても終わらない。手にした「遊な本」に55[守]が詰まっている。編集の道で存分に遊んでほしい。

 

アイキャッチ・文/佐藤健太郎(55[守]同朋衆)

  • 佐藤健太郎

    編集的先達:エリック・ホッファー。キャリアコンサルタントかつ観光系専門学校の講師。文系だがザンビアで理科を教えた経歴の持ち主で、毎日カレーを食べたいという偏食家。堀田幸義師範とは名コンビと言われ、趣味のマラソンをテーマに編集ワークを開催した。通称は「サトケン」。

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コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。