しっかりどっぷり浸かりたい【89感門】

2025/09/20(土)17:24
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 ここはやっぱり自分の原点のひとつだな。
 2024年の秋、イシス編集学校25周年の感門之盟を言祝ぐ「番期同門祭」で司会を務めた久野美奈子は、改めて、そのことを反芻していた。編集の仲間たちとの再会が、編集学校が自分の核であることを思い出させたのだ。久野は、西へ向かう帰りの新幹線の中、いてもたってもいられず、スマホから54[守]に申し込んでいた。2002年6[守]・ちょっとバロッコ教室、2003年岐阜県ローカルのオリベ編集学校・提燈爛漫教室で師範代登板し、22年ぶりだった。

 54[守]は、入門した頃(2[守])と比べると、お題も変わっていた。エディットカフェを使うスタイルも新鮮だった。だが編集稽古の面白さは変わらなかった。卒門後はその勢いで54[破]に進破。突破した久野に、[破]の原田学匠から師範代オファーが舞いこむ。驚いた。

 ちょうど友人とこんな話をしていた。
「うちらくらいの年齢になると、今までの自分のキャパでできるとわかっていることだけやっててもダメだよね」
 自らの言葉が反転して戻ってくる。オファーから1時間後、久野は「引き受けます」と返事をしていた。

 不安はあった。仕事との兼ね合いもあった。
 だが、イシスという場では、たとえ今、不足を抱えていたとしても、その先に向かうカマエさえ持っていれば、決して一人ぼっちで放っておかれることはない。その確信が久野の背を押した。

 最後に、教室でやりたいことは何かと問うと、ひと言だけ返ってきた。
「しっかりどっぷり浸かりたい」

 

 感門之盟・出生魚教室名発表では、進行の一倉師範と紀平師範から「イシスの新しいネオバロックへ向かってほしい」と託された。オリベゆうゆう教室の久野美奈子師範代の55[破]が、始まる。


アイキャッチ/角山祥道(44[花]錬破師範)
文/高田智英子(43[花]錬成師範)

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コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。