何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

「言葉の学校であるが、イメージについて語りたい」
4月末からのゴールデンウイークが終わり、初夏に向けて最高気温も上昇中です。フィクションでの枢機卿たちの思惑を描く『教皇選挙』が上映されて架空の教皇が選出されていました。リアルの世界でも新教皇のレオ14世が誕生が就任し、ローマ・カトリック教会による世界編集に目を離すことができません。同じ時期の5月10日、イシス編集学校の師範代を養成する花伝所で、受講生の思考を震わすイベント・入伝式が豪徳寺駅近くの編集工学研究所で開催されていました。
第1部の「花伝師範メッセージ&入伝生自己紹介」の後、第2部として方源(デザイナー)の穂積晴明による「イメージの編集工学」の講義がありました。穂積は卒業式にあたる感門之盟でタイトルに肖ったタブロイド紙を制作したり、校長の松岡正剛が執筆した『知の編集工学』新装版の表紙や、人類の誕生から現在まで壮大な歴史を「人類はどのように情報を編集してきたか」という視点で独自に構成した年表『情報の歴史21』の表紙を担当しています。学生時代は言語学を専攻していましたが、編集工学研究所に入ってからデザイン力を深めていました。
今回、松岡からデザインに関するディレクションを直接受けていた穂積による講義をダイジェストでレポートいたします。
方源の穂積晴明がデザインした書物の表紙たち
◎たくさんの枕の見方たち
プレゼンテーションの始まりとともに入伝生に対してお題が手渡されました。
枕から「顔」に見えるところを見つけて描き出してください。
[守]基本コースでは「地と図」についての学びがあります。枕の絵という「図」の情報と、それを見る人の背景となる「地」模様によって、枕の見え方が変わりますね。
編集工学研究所のスタッフの見方が一部紹介されます。虫の目のようなカメラを使って寝ている顔の絵、マンガ『クレヨンしんちゃん』のお父さん役である野原ひろしの顔もありました。さらに鳥の目のようなカメラを使って枕全体で「ぞうさん」を描くスタッフもいたようです。入伝生のUさんは三日月、猫、尖った鼻の3つの顔を取り出していました。枕の中の窪みなどの変化に対して視点を動かし、カメラのズームイン/アウトを行っていたようですね。
我々の想像力は単一で動くのではなく、複合的に動きます。穂積は「イメージの違いはエディティングモデルの違いである」と説きました。入伝生は枕の絵を共読することでエディティングモデルの交換を起こしていたのです。
入伝生のUさんの選んだ3つの顔
◎対話で揺らすエディティングモデルの見方づけ
エディティング・モデルとは経験や文化的背景と言い替えることができます。形作られていても自分自身では普段は意識できていない、と対話相手の師範・村井宏志が語りました。「エディティングモデルによって私たちは生きている」と穂積が返します。文化的な遺伝子(意伝子)を受け継ぐ私たちが「情報の動物」であり、「情報生命」であることを強調しているようでした。
村井はデザインにおいてエディティングモデルの交換をどのように捉えているのか、と穂積に聞きました。仕事中、自身が書いた図像が他者にとって理解できないという困難があったようです。そのとき、松岡から「デザインを創ったら直ぐに持ってくるように」とのディレクションを受け、赤ペンによる指南を受けるたびに作品のクオリティを高めていったのです。他者との関わりの中でしか築けないモノがある、と村井は断言していました。穂積はエディティングモデルを交換によって松岡の見方を吸収し、デザインを再構成できていました。
編集学校の守・破・離・物語などの講座では、学衆(学び手)からの回答に対して、師範代(編集コーチ)からの見方が提示され、新たな気づきと発見を享受できますね。回答回数に制限はなく何度もチャレンジできる。とてもお得な稽古の仕組みになっています。
◎イメージのアーキタイプをたどる
私たちのアタマはステレオタイプな絵を一度観てしまうと、イメージが固定化されやすいですね。そこから脱却するために、アーキタイプを辿ることを穂積は強調しました。イメージの語源が「imagines」であり、ローマ時代において崇拝されていた先祖のデスマスクであることが示されています。古今東西の文化を紐解くと、イメージに関する言葉は死者や喪われたモノと関係づけられていたようです。その後、「ないもの」を見つけるための3つのカテゴリーを提示しました。
まだないもの(未来)
もうないもの(幽霊)
わからないもの(怪物)
アタマの中で将来を予測したり、過去に栄えた歴史の跡を追い求めたり、未知だらけの怪物を想像すればよいのです。
「ないもの」の見方をサイエンスへ向けながらイメージを創った事例として、穂積は魚豊さんのマンガ『チ。』を紹介していました。このマンガでは天動説が支配的な中世ヨーロッパというワールドモデルで、異端指定による排除を覚悟しながらも天体観測の結果に基づくイメージから地動説を追い続けるキャラクターが活躍しています。天動説も地動説も主な要素は「地球」と「太陽」なのですが、中心に置く要素によって全く異なるモデルになりますね。どちらのイメージを支持するかで命がけの闘争になる、と穂積が語っていました。
最後に[破]応用コースを取りまとめる学匠・原田淳子からのメッセージがありました。昔、若桑みどりによる図像の解釈学の講義を受け、西洋絵画の背景にあるキリスト教というエディティングモデルの影響力に気づくことができたようです。
花伝所では道場という器の中で師範と入伝生が演習を重ねることにより、松岡が築いた編集工学の方法を身体化できます。方法日本のモデルをインストールすることで、放伝(卒業認定)する頃には世界へ向かって編集できるようになりそうです。
方源・穂積晴明による感門之盟のデザインたち
畑本ヒロノブ
編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。
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コメント
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