何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

4月30日、近鉄奈良駅前の啓林堂書店はまだ営業していた。
千夜千冊エディションの最新刊『大アジア』を手早く買い、自転車に乗って帰る。
「今回は口絵写真どうなってるのかな?」と長男(12)。
まず表紙をじっくり見てみようと言って差し出す。
「大アジア? よく考えると、聞いたことない言葉だ。どういう意味だろう。背景は古い地図?」
いよいよ口絵を見る。
「全然予想と違う。なにこれ?」。
私も初見だ。ページに顔を近づける。
「漫画だよね? キャラクターの目つきが怖い。どんな漫画なん? 本文に説明が出てくるのかな?」
しばらく見つめて思い出す。安彦良和の漫画『虹色のトロツキー』だ。
430夜、第三章にある。冒頭、「どうやってこの傑作の興奮を案内しようかとおもっている」とある。
口絵。ページ下半分は黒地で、 ”I AM STILL ALIVE”という文字がうねってる
校長プロフィール欄、今回は普通の写真だねと言いながら一ページめくる。
「まさかの、俳句がぜんぶ漢字」
どう読めばいいか分からない。代わりに俳句下の横書き、「手:町口覚の父君」に目が吸い寄せられた。手のクレジット?
もう一度口絵に戻って、手に注目する。
「校長の手だと思い込んでた。この人、そんなに特別な人なのかな」
町口さんの名前は憶えがある。奥付を開き、見せながら、町口覚さんは、この本の造本設計をしている人なんだよと伝える。
「自宅で撮ったのかな? 豪徳寺で撮らなかったんだ。なぜだろう」
外出自粛だから? それとも、家でぱっと撮ったら、思いがけずいい写真になったのかな。少し疑問を残しつつも、なんだか全部おもしろいという表情に変わってきた。
「そうだ。今回の裏表紙の字は、何だろう?」
亜。
「アジアの亜。これは、わかる」
背表紙を見る。L-500-15と番号が振られている。
「15冊目になるんだ。一番気になってるのは、千夜千冊エディションが、何冊まで出るのかってこと」
L-500-15
目次を見て数えると、今回のエディションには23夜が収められている。1740夜を23夜で割るとどうなる? 問いかけると計算機を出してきた。
「だいたい75.6。四捨五入したら76冊ぐらいだけど、まだまだ出るかもしれないよね。校長が生きていて、書き続ける限り、千夜千冊は増えていくから」
長男が読むのはここまで。
気になっていたところをチェックしたら、どこかへ遊びに行ってしまった。
伽耶、大東亜、事大主義。私は赤ペンを手に、目次にマーキングして、前口上から読み始める。
カナダの教育学者、キエラン・イーガンは、子どもの想像力を触発する15のアプローチの一つが「英雄」とのつながりを感じられるようにすることだと語っている。
千夜千冊エディションを開くことは、長男にとって「どんなモノ、ヒトからも英雄性を感じ取る」という認知的道具を刺激する機会になっている。
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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2025-10-02
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