時を超えた足元ミーム ~ウルトラマンからヘビへ~ 53[守]伝習座

2024/04/29(月)12:00
img POSTedit

 福澤美穂子が[守]に帰ってきた。30期代で番匠として冨澤陽一郎学匠を支え、その後、物語講座や多読ジムで活躍している。久しぶりの[守]は福澤の目にどのように映ったのか。注意のカーソルが寄ったのは足元だった。


 

 感門之盟かと錯覚するほどに、伝習座当日の午前中のリハは熱かった。本気に満ちていた。ここ数年はイシス編集学校の秘境である物語講座と多読ジムに携わっており、[守]の伝習座の裏側に来るのは7年ぶり。
 異次元だった。前々日のリハでは、師範同士が互いに遠慮なく指摘し合う。さらにそれを受けて変更をかけ、当日リハがぐっと引き上がる。ここまで真剣に、入念に準備するのか。[守]の熱量は凄い。
 リハ開始前なのに身ぶり手ぶり大きく自主的に通しリハする角山師範。黒板の字は意外にきれいだ。遮られるまで語りを止めず、本番のように話し続ける相部師範と石黒師範。脇目もふらず、周囲を遮断し、打合せに集中する阿曽番匠と阿久津師範。
 生ぬるさはみじんもない。その気迫のままに、勢いよく伝習座が始まった。「みなさんなら、そこまで行ける」と康代学匠の声が響く。

 

 目を引いたのは、石黒師範の靴である。
 ヘビ柄だ。色っぽい。
 春風のようなやわらかな装いに一点、獲物を狙うヘビの気配。

 

 3月半ば、用法1「わける・あつめる」語りを指名された石黒師範は「実はもう、構想がありまぁす!」と勢いよく手をあげた。国立科学博物館の特別展『大哺乳類展3 わけてつなげて大行進』を絡めたい、と前のめり。「時代がイシスに追いついてきましたね!?」と意気込みを語る。ヘビは哺乳類ではないが、石黒師範は何か関連するものを身に着けたかったのだろう。カテゴリーを「動物」に広げた自在な編集力で颯爽と本楼に現れた。登壇する石黒師範を守るように足元のヘビは静かに輝いていた。

 今回の伝習座の参加者は、事前に第77回感門之盟校長校話「断点から断然へ」を視聴している。その中で校長は靴についてのヴィヴィアン・ウエストウッドの言葉を紹介した。靴から決めなさい、それから上に上がっていきなさい、靴を変えないでどうして女が変わりますか。靴という超部分に編集意図を込めること。石黒師範が体現したのは、このことだ。

 

 ふと、冨澤陽一郎前学匠を思い出した。伝習座や汁講などここ一番のときに、気合いを入れてウルトラマンデザインのスニーカーを履いていた。「かっこいい靴ですね」と指摘したときの、はにかんだ、少し自慢げな笑顔がよみがえる。
 時を越えて、足元編集のミームは受け継がれている。

 

文 福澤美穂子(53[守]師範)

アイキャッチ 石黒好美(53[守]師範)

写真 後藤由加里          

 

★第53期[守]基本コース
稽古期間:2024年5月13日(月)~2024年8月25日(日)
申込はこちら

  • イシス編集学校 [守]チーム

    編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。

  • エディット・アスリートの祭典ー55[守]クロニクルー

    花伝所の指導陣が教えてくれた。「自信をもって守へ送り出せる師範代です」と。鍛え抜かれた11名の花伝生と7名の再登板、合計18教室が誕生。自由編集状態へ焦がれる師範代たちと171名の学衆の想いが相互に混じり合い、お題・ […]

  • 【88感門】結司・響事・籟記が生まれた日

    これまで松岡正剛校長から服装については何も言われたことがない、と少し照れた顔の着物姿の林頭は、イシス編集学校のために日も夜もついでラウンジを駆け回る3人を本棚劇場に招いた。林頭の手には手書きの色紙が掲げられている。 &n […]

  • キンダイ

    週刊キンダイvol.018 〜編集という大海に、糸を垂らして~

    海に舟を出すこと。それは「週刊キンダイ」を始めたときの心持ちと重なる。釣れるかどうかはわからない。だが、竿を握り、ただ糸を落とす。その一投がすべてを変える。    全ては、この一言から始まった。   […]

  • 未来へつなぐ編集と松岡校長のOS ―師範 The談(下)

    55[守]で初めて師範を務めた内村放と青井隼人。2人の編集道に[守]学匠の鈴木康代と番匠・阿曽祐子が迫る連載「師範 The談」の最終回はイシスの今後へと話題は広がった。[離]への挑戦や学びを止めない姿勢。さらに話題は松 […]

  • 出世魚の眼差し――55[破]教室名発表【89感門】

    目が印象的だった。半年前の第86回感門之盟、[破]の出世魚教室名発表で司会を務めたときのことだ。司会にコールされた師範代は緊張の面持ちで、目も合わせぬまま壇上にあがる。真ん中に立ち、すっと顔を上げて、画面を見つめる。ま […]

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。