本から覗く多読ジム——『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』【ニッチも冊師も☆石井梨香】

2024/03/05(火)12:00
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 少し前に話題になった韓国の小説、ファン・ボルム『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(集英社)を読んでみました。目標を持つこと、目指す道を踏み外さないこと、成功することや人に迷惑をかけないことに追い立てられている人々が、書店という場所で、自らのこれまでと今を受け入れていく物語です。
 読者の感想には「こんな書店に座っていたい」「オアシス」「小さく温かな灯り」といった言葉が書かれています。ホッとする場所がヒュナム洞書店なら、多読ジムはどんな場所なんだろう。本を読みながら考えてみました。


「本当」の自己紹介から始まった読書会

 ヒュナム洞書店の読書会エピソードの中心人物は、店の近くに住んでいるミンチョルオンマ(ミンチョルのママといった意味)。韓国では母親である女性に対して、子どもの名前にオンマ(母)をつけて呼ぶことが多いようです。美人で華やかで行動派のミンチョルオンマは、「金を稼ぐってそんな甘いもんじゃないわよ」と言い放ちつつも、開店当初から店主のヨンジュを気にかけている人情派でもあります。
 ヨンジュのすすめで読書会のリーダーとなったとたん、5人ものメンバーを集めたやり手ですが、初めての読書会では緊張で頭が真っ白になったとヨンジュに助けを求める素直な人でもあります。水を飲んで深呼吸した後に、「誰かの母や妻ではなく、自分の本当の名前で自己紹介をしよう」と提案し、そこから二時間、「オンマたちの読書クラブ」のメンバーは、自分のことだけを話せるのが嬉しくて仕方ない様子で、競うように語り合ったのでした。


カタルシスとパッサージュ

 ヒョナム洞書店の読書会が本を媒介にして自分を語り共感しあう場であるならば、多読ジムはスタジオ内のメンバーの本の読み方を交換しあう場と言えるでしょう。本の表紙や装丁や前書きから受けとったイメージを出し合い、本から抜き出した引用やマーキングを見せ合います。
 本の読み方は人それぞれですし、一人の人でも時期や時間や状況によって読み方が変わります。それを交換することで、同じ本でも着眼点が全く違うことに驚いたり、見過ごしていた細部に気づいたりすることもあります。

 

多読ジムの参加者はこう語っています。

・他人の読書が自分のものになっていく。
・知をジャンプさせる土台をシェアしつつ、いろんな方向に飛んでいける場はここしかない
・読んで何となく感じたことが他の本やスタジオの仲間との共読、冊師のコメントと重ねてみると、全く異なる風景が見えてくる。
・読書の領域がスムーズに広がっていく。

ヒョナム洞書店の読書会がカタルシスなら、多読ジムは、それまでとは違うレイヤーへのパッサージュによる解放だなあと思います。


「オンマたちの読書クラブ」は、その後、妻や母としても生き、39歳で小説家デビューしたパク・ワンソの本を読み続けているようです。多読ジムでは、シーズンが替わる度に、初めての本、運命の本に出会い、時には初めての「わたし」にも出会うことができます。

・毎シーズン、これは運命の出会いかも、と思う本が一冊はある。
・一生読まないかもしれない本に出会えるのも多読ジムならでは。
・読んだら書くのがこのジムなので、「あれ、私ってこんなこと考えていたの」って思うような、新しい自分に出会うことがたまにある。

多読ジムseason 17で出会った本


新たな「わたし」に出会いたいなら、多読ジム、おすすめです。


★season 18 のトレーニングは、2024年3月11日スタート!
 紹介記事はこちら

 

■info 多読ジムseason 18 春


【定員】若干名
【お申込】https://shop.eel.co.jp/products/detail/644
【申込資格】突破者以上
【開講日】2024年3月11日(月)
【申込締切日】2024年3月4日(月)
【受講費】月額11,000円(税込)
 ※ クレジット払いのみ
 ※ 初月度分のみ購入時決済
  以後毎月26日に翌月受講料を自動課金
  例)season 18 春スタートの場合
    購入時に2024年3月分を決済
    2024年3月26日に4月分、以後継続
※申込後最初のシーズンの間はイシス編集学校規約第6条に定める期間後の解約はできません。あらかじめご了承ください。
  → 解約については募集概要をご確認ください。


『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』ファン・ボルム/集英社

  • 石井梨香

    編集的先達:須賀敦子。懐の深い包容力で、師範としては学匠を、九天玄氣組舵星連としては組長をサポートし続ける。子ども編集学校の師範代もつとめる律義なファンタジスト。趣味は三味線と街の探索。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。