何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

学衆の回答を見た武邑光裕さんから漏れてきたのは、「ここまで(作品が)広がりを持つのはすごい」という言葉だった。
実は、1月21日に行われた52[守]特別講義「武邑光裕の編集宣言」に際し、武邑さんからは同期学衆に対し、ミメロギアのお題が出題されていたのだ。それが「水・魚」だ。
武邑さんが「メディア美学者」を名乗っていることを考えれば、これがマクルーハンの言葉を下敷きにしていることは想像が付く。
「私は、水を誰が発見したかを知らない。ただ、それは多分、魚ではなかっただろうと思う」(Marshal McLuhan「Medium is the Massage」1967)
講義当日、学衆がエントリーした105の「水・魚」の回答を眺めながら相好を崩す武邑さんに、「やはりマクルーハンですか」と師範から質問が飛んだ。武邑さんは頷きながらも、「『犬と鬼』でもある」と返した。
「アレックス・カーのいう『犬と鬼』ですね。私たちは、普段見慣れているものを知覚できない」
アレックス・カーの『犬と鬼』(講談社学術文庫)とは、『韓非子』の故事からきている。王から「何が書きやすいか」と問われた画家は、「普段見慣れている犬は、いざ描こうと思っても描きにくいが、想像上の鬼は描きやすい」と答えた。
アレックス・カーは、日本の美しい自然や錬磨された芸術・文化を「犬」に見立てた。当たり前過ぎて、見失ってしまったのではないかと。日本人は、かわりに派手な建物やモニュメント(鬼)を創り、真の自分の姿からかけ離れていった。
ではどうするか。
武邑光裕さんの講義で語られたのは、水から飛び出し、「水を知覚せよ」ということではなかったか。
武邑さんのミメロギアのお題「水・魚」に込められていたのは、自分たちの世界を知覚し、そこから飛躍しようというメッセージだった。
講義の日、武邑さんに「回答をどう思ったのか」と直接ぶつけてみる。開口一番発せられたのが、件の「ここまで広がりを持つのはすごい」だった。「絞るのが難しい」と呟きながら、目に付いた作品にコメントしていく。
▲ミメロギアの回答にじっくり目を通す武邑さん。
「『祇園こそ水・舞子こそ魚』、これはうまく場所を移しました。絵も浮かびます。『ページは水・文字は魚』もいいなあ。『ニコニコ動画』ってありますよね? 動画にコメントを付けられるのが特徴ですが、英語の解説では、あの文字を横に泳いでいく魚に喩えているんです。まさに『文字は魚』ですね。『さっきまで水・いまでも魚』、これもいい。魚がいつ水を知覚するのか、あるいはしないのか、そのことを問うているようです」
しばらく無言で回答を凝視すると、武邑さんは続けた。
「どの作品を見てもグッときてしまって、すぐには選べません。時間をいただけますか?」
10日後、「作品の観点はそれぞれ興味深く、選ぶのに苦労しました」と言葉を添え、武邑さんが選んだ11作品が明かされた。
ではここに、「武邑光裕特別賞」を発表しよう。
<武邑光裕特別賞>
祇園こそ水・舞子こそ魚 (武田麻里さん/北方ボタニカル教室)
神の水・饌の魚 (太田友理さん/即断ピアニッシモ教室)
ページは水・文字は魚 (上野明人さん/北方ボタニカル教室)
舞台の水・踊り子の魚 (工藤満衣さん/変速シフト教室)
転生する水・輪廻する魚 (森下優子さん/千離万象教室)
広告の水・消費者の魚 (平野里美さん/カミ・カゲ・イノリ教室)
いのちの水・分身の魚 (山川貴代さん/語部おめざめ教室)
さっきまで水・いまでも魚 (岡崎史歩さん/時々ゾーン教室)
宇宙は水・私は魚 (里円さん/北方ボタニカル教室)
空の水・星の魚 (竹林謙さん/時々ゾーン教室)
地球は水・人間は魚 (渡辺礼子さん/埒をあけます教室)
「しいて大賞を選ぶとすれば、一字で世界観を描き切った『神の水・饌の魚』です」(武邑さん)
即断ピアニッシモ教室の太田友理さんは、瀬尾真喜子師範代の伴走のもと、最終日の「祭々々々々回答」で一字にそぎ落とし、新たな世界を知覚したのだ。
太田さんをはじめ、水から果敢に飛び出した、11名の学衆に改めて拍手を贈りたい。
ミメロギアに奮闘した52[守]学衆諸君、さあ次はどこへ飛び込もう。
文/角山祥道(52[守]師範)
写真/後藤由加里
◎第52期[破]応用コース◎
●期間 :2024年4月22日(月)~2024年8月11日(日)
●申込締切 :4月7日(日)
●申込先 :https://es.isis.ne.jp/course/ha
●問い合わせ:isis_editschool@eel.co.jp
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