何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

秋の読書週間が始まり、都内・神保町付近ではこの週末にブックフェスタが開催されている。商店街通りは多数の読書好きが集まる大盛況。出版社ブースにおける3~7割引の書物のラインナップに対して、ついつい財布の紐が緩み、大人買いをした者もいたに違いない。同じ時期、10月29日に豪徳寺の編集工学研究所で、輪読座「富士谷御杖の言霊を読む」第一輪が開催された。
病理医もお勧めする歴史情報が詰まった『情報の歴史21』で富士谷御杖を検索すると1807年に「コトダマ理論研究」として登場する。千夜千冊1008夜『仁斎・徂徠・宣長』では、叔父が京儒の皆川淇園、父が国学者の富士谷成章である御杖が「言霊」にめざめて歌学にとりくんで、『歌道非唯抄』『うたふくろ』『古事記燈』『万葉集燈』『百人一首燈』『土佐日記燈』などを著したことが示されていた。本居宣長や賀茂真淵らの学問を摂取しながらも批判し、まったく新しい「言霊論」という見方を展開した知る人ぞ知る異才の国学者だったのだ。歴史の裏側に潜んでいた人物を解き明かす講座に対して40名を超える申し込みがあった。
図象を駆使しながら講師役を務める輪読師・高橋秀元はいつもと異なり、白く艶のあるジャケットを着て登場した。石油を原材料として製造された衣服が大多数を占める世界で、高橋が最もエコな会社と評するSpiber株式会社の人工の蜘蛛の糸が使用されている。ボタンはラピスラズリ製で高級感も溢れている。
その真価は表側だけではなかった。高橋の右隣にいる斎藤耕一さんが柔らかに裏地を見せる。映っているのは鵲(かささぎ)。古代に渤海から日本海を通じて出雲の国、そして大和朝廷へと飛び渡るとともに、「アギ」と呼ばれる文節語をもたらしたスズメ目カラス科に分類される鳥であった。アーキタイプに思いをはせる言霊の服で輪読座がスタートしたのだ。
輪読師による図象解説では、皆川淇園、富士谷成章、富士谷御杖の3名が中心に置かれた。皆川淇園は独自の言語論を通じて「名」が「物」を生じるとする開物論を立ち上げ、ヒトの神経作用を通じて言語が生成されると唱える。名づけによって将来出現するモノがあることを強調していた。スパイダー(蜘蛛)とファイバー(繊維)に肖ったSpiberという会社名にも人工の蜘蛛の糸を使ったモノを生み出す言霊の力があったのだ。
兄である皆川淇園の開物論をベースにして国語学を興し、日本語の構造性を初めて明らかにした富士谷成章。叔父と父の意思を受け継いだ富士谷御杖は、あらゆる言葉や文法に言霊が宿るものとみなした。そして、「輸送」や「移し替え」を語源とするメタファーの一種である〈比喩〉や、語の音節の順序を逆にしてつくられる〈倒語〉を積極的に使うことで、時間の制約を超えた言霊の力が発揮し続けると信じて『真言弁』を表した。
その後、『真言弁 上巻』の音読が始まり、参加者たちの読み上げの間に高橋による解説が続き、難解な文章の意図がほぐれていった。
次回の第二輪は11月26日(日)。輪読座ではアーカイブによる視聴がいつでも可能だ。門戸は常時、誰にでも開かれている。富士谷御杖の怪物性に関心を持たれた方はコチラをクリックいただきたい。
畑本ヒロノブ
編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。
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コメント
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2025-10-02
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