何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

「好きな場所で、好きな時間に、○○できます」。ネット上のサービスでよく耳にする謳い文句だ。Amazon Primeの映画しかり、メルカリの買い物しかり、Udemyのお勉強しかり。不思議な名前のついた教室がいくつもネット上に浮かぶイシス編集学校も「いつでも、どこでも」編集稽古ができるとあって、日本はもとより海外からの受講者も増えている。だがこのところ連打されているエディットツアーや学校説明会には、“わざわざ”世田谷豪徳寺の【本楼(ほんろう)】に駆け付ける人たちがいる。
イシス編集学校を運営する編集工学研究所(編工研)の1Fに本楼はある。最寄り駅は、駅前に凛々しい眉毛の招き猫がぽってり鎮座する小田急線の「豪徳寺駅」、またはつり革にも床にも外装にも猫があしらわれた招き猫電車がごとごと走る東急世田谷線の「山下駅」。小さなお店が軒を連ねる商店街をたのしみながら駅から7分ほど歩くと、黒い外壁に赤く浮かび上がる「ISIS」の文字が見えてくる。
▲招き猫発祥の地とも言われ、数え切れないほどの招き猫に出会える豪徳寺。三重塔にも猫が彫られていて、境内の意外な猫探しも楽しい。ちなみに豪徳寺の招き猫は小判を持っていない。「人を招いて『縁』をもたらしてくれますが、福そのものを与えてくれるわけではありません」(豪徳寺HPより)。豪徳寺へは小田急線「豪徳寺駅」から徒歩15分、東急世田谷線「宮の坂駅」から徒歩5分ほど。
編工研の玄関では「井寸房(せいすんぼう)」と名づけられた天高4mの“本の茶室”に迎えられ、ちょっと不思議な「躙り口」をくぐればそこが「本楼」だ。右も左も、手前も奥も、足元から天井まで全方位から本が目に飛び込んでくる。「本の楼閣」という意味もあれば、訪れる人々を「本で翻弄したい」という遊び心もある校長・松岡正剛のネーミングである。本楼には日本にまつわる約2万冊の本が、一般的な図書分類とは異なるセイゴオ流の文脈編集によって波打つように並べられている。
▲本楼の本棚には、校長松岡正剛の読書術を覗き見できるマーキング本もたくさん棲みついている。写真はメアリー・カラザース『記憶術と書物』(工作舎)のセイゴオマーキング。
これほどの本に囲まれると図書館や書店のようなイメージも湧くが、それだけではない。あるときは田中優子さんが編集革命の狼煙を上げる広場に、あるときはマキタスポーツさんがミスチル・長渕・サザンに扮して歌うステージに、あるときは今福龍太さんが難破者たちと次の島影を目指す船着き場になった。ほかにも、異能で異色で異例なゲストが集結する知のコロシアム、ドリアン・ロロブリジーダさんとの色っぽいおしゃべり場、ヨウジヤマモト コレクションのランウェイ、150以上の掛け軸が垂れ下がる森、ジャイアンとジャイ子が遊ぶ空き地、ジャパネットてらだの実演販売場、サケが戻る故郷の川、終わってほしくない夏休みのように離れがたい場所など、本楼はさまざまな世界を生み出してきた。本楼にはどんな編集のシカケがあるのか、ぜひ現場で味わっていただきたい。
エディットツアーや学校説明会の参加者たちは、なぜわざわざ本楼を訪ねてくるのか。本楼で出会った方々に「キッカケ」を訊いてみた。
昨年、ヤマザキマリさんがゲストで出られた「『情報の歴史21』を読む」のイベントに参加したんです。当時は広島に住んでいてZoom参加だったので、画面の向こうに見える本楼にいつか行ってみたいなと思いました。最近、夫が東京に転勤になって一緒についてきたんですが、本楼でエディットツアーをやると知って、これは!とすぐに申し込みました。一緒に行こうよ!と友人も誘って来ちゃいました。
3カ月前まで金沢に住んでいたんですが、そこで華岡晃生さん(金沢の総合診療医で、イシスの師範)に出会ってイシスのことを知って、編集力チェックを受けてみたら心をわしづかみにされちゃって。そのあと急に東京に転勤になり、引っ越してきたのが経堂で、あれ?イシス編集学校の隣駅だ!とビックリ。これはもう呼ばれていると思って学校説明会に来ました(笑)家族割をつかって父親と一緒に[守]に申し込もうと思っています。
ふたりとも思いがけない引越しが、「いつか」と思っていた本楼を「いま」に手繰り寄せたようだ。また別の参加者からは「ずっと」とか「なんとなく」という言葉が出てきた。
すぐ近所に住んでいるんですが、前を通るたびに、この施設ってなんなんだろう…?とずっと気になっていたんです。最近になって編集のことをやっているんだと知って興味が湧いて、無料学校説明会があるなら行ってみようと。近くに住んでいたのに、遠回りでした(笑)
むかし丸の内にあった松丸本舗に行ったときに、こんなに素敵な本屋さんがあるなんてと驚いたんです。それからずっと松岡正剛さんや本楼のことが気になっていたんですけど、なかなか来る機会がなくて。今日やっとエディットツアーに来られてもう嬉しくて嬉しくて、感激です。
友人が松岡正剛さんのところに通っていると聞いて、ふーんと思っていたんですが、しばらくすると友人が変わったんです。お互い仕事で悩んでいて、この先どうしようかなあとよく話していたのに、友人が生き生きしはじめて。それでイシスには変わる秘密があるのかもしれないとなんとなく気になっていて、今日は思い切ってエディットツアーに参加してみました。
海外からの参加者の「たまたま」もあった。
ふだんはオランダに住んでいるんですが、たまたま日本に帰国しているときに今日の学校説明会があると知って大喜びで来ました!
僕はニューヨークに住んでいて、仕事はアーティストなんですが、はじめて日本で個展をひらくことになって今回帰国したんです。イシスは何か月か前に編集力チェックを受けて、オツ千(おっかけ!千夜千冊ファンクラブ)も好きでずっと聞いていて、お便りも3回くらい送っています(笑)実際に坊主さんと小僧さんにとりあげてもらったときは嬉しかったですね。今回の学校説明会はウメコさんのメルマガで知って、この日なら帰国のタイミングで参加できる!と思って申し込みました。
▲10/8(日)中原洋子師範がナビゲーターを務めた学校説明会には、豪徳寺界隈に住むご近所さんもいれば他県やオランダやニューヨーク在住の方もいて、世界各地からの参加者がたまたま本楼で出会う偶然が刺激的だった。中原自身も軽井沢在住のジャズシンガーで、当日は新幹線で上京。過去に編集ワークショップや企業研修をいくつもナビゲートしてきただけあり、歌うように小気味よく進めていた。
▲10/3(火)福井千裕師範代がナビをしたエディットツアーでは、最近都内に引っ越してきた主婦、松岡正剛ファンの会社員、松丸本舗を知る本好きの方などが「いつか本楼に行きたい」「松岡正剛の編集に触れてみたい」という夢が叶ったと目を輝かせていた。加えて、まったくイシスを知らない友人を誘って「一緒に来ました!」といううれしいペア参加も2組。2時間後にはキラキラの目が増えていた。
9/30(土)石黒好美師範のエディットツアーには、基本コース[守]を卒門したばかりの学衆Kもやってきた。ふだんは熊本に住むKさんは、先日の感門之盟では仕事が入ってしまい泣く泣くZoom参加だったそうだが、数週間後に東京への出張が決定。ちょうど東京滞在中に本楼エディットツアーも開催されると知って念願の本楼訪問を果たした。エディットツアーが終わってからもしばらく残り、あちこちを観て回ってから満面の笑みで帰っていった。
▲本楼に刻まれた<Pauca sed Matura>の文字を見てなんだろう…?と考えこんだり、2階の学林堂にあがって増補新装版『知の編集工学』(松岡正剛・朝日文庫)のカバーデザインを手がけた穂積晴明デザイナーと記念撮影をしたり、九天玄氣組の『擬』の冊子を愉しそうに眺めたり。10月からは応用コース[破]の受講を決めているKさんだが、「花伝所に行って師範代になりたい」とその先の夢も語ってくれた。
本楼に来るキッカケはさまざまだが、本楼がキッカケとなって日常にあらたな編集が起こっていきそうだ。
いますぐ本楼に行きたくてウズウズしてきた方もいるかもしれない。ただ、本楼は常時公開はしていない。イシス編集学校未入門の方は「本楼開催」のエディットツアーや学校説明会に参加していただくのが一番だ。どちらも事前知識は一切不要、小学生のおじょうちゃんから人生二周り目でも編集稽古をしてみたいという方まで年齢も関係なくどなたでも参加できる。開催スケジュールは、遊刊エディストの「ただいま募集中!」で随時更新しているほか、メルマガでも発信中。もちろん、イシス編集学校の基本コース[守]に入門すれば、汁講や感門之盟などで本楼を訪れる機会はうんと増えるはず。そのころには本楼にクビッタケになっているだろう。
福井千裕
編集的先達:石牟礼道子。遠投クラス一で女子にも告白されたボーイッシュな少女は、ハーレーに跨り野鍛冶に熱中する一途で涙もろくアツい師範代に成長した。日夜、泥にまみれながら未就学児の発達支援とオーガニックカフェ調理のダブルワークと子育てに奔走中。モットーは、仕事ではなくて志事をする。
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2025-10-02
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