何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
神戸七郎さんは元商社マンとして、現海運マンとして、グローバリズムの中で欧米企業と競ってきた。彼らに対抗すべき方法を、神戸さんはイシス編集学校で見つけた。
イシス受講生がその先の編集的日常を語るエッセイシリーズ。第10回は、松岡正剛直伝講座[離]を経ての神戸さんの気づきをお届けします。
■■「学習棄却」という武器に相対して
仏の石油大手トタルエナジーズの担当者と、ブラジル沖深海油田開発案件を話し合っていた最中のこと。「本件は少額だけれど従来の方針変更に関わることなので、弊社社長に相談します」という回答が返ってきた。これを聞いて「トタルエナジーズの社長は細かい案件まで知りたいタイプなのか?」という思考で終わってしまうことと、欧米型のエリート育成システムにまで思いが及ぶことの差は大きい。
離学衆として明治期から第二次世界大戦における日本の敗因分析を討論したことがある。その際のキーワードの一つが「学習棄却」であった。学習棄却(アンラーニング)とは、それまでの知識やスキルに拘泥せず、有効でなくなったものを捨て、代わりに新しい知識・スキルを取り込むことだ。
末端まで含めた情報の収集分析とその判断をいかに効率的に行うか、米軍のこの課題に対する回答がエリート育成システムにあった。彼らは徹底したエリートの育成と判断の集中によって、演繹的につみ上げた学習の棄却と、更新ができる組織を作り上げていた。一方の日本軍は参謀本部の独断専行に陥り、前例を棄却して日々刻刻と変わる戦況に対するという判断の質を維持できなかった(『失敗の本質』野中郁次郎他)。権限を集中させる点では同じだが、米軍は「学習棄却」を大前提にしていた。つまり常に編集状態にあった。日本軍は情報が固定化され、「偶然」を生かす余地も余裕もなかったといえる。セレンディピティに欠けていた。
では、これは日本の特徴なのか。そうではない。
神の到来を日本では「おとづれ」と呼んだ。「おとづれ」とは「音連れ」であり、「訪れ」だ。神の到来という偶然を機とするような、おとづれ(音連れ)を生かす方法が、日本にはあったはずなのだ。偶然という「外部の異質性」を取り込み、再編集するという方法だ。日本の伝統文化は本来的にそうした微かな音連れの声を取り込むモデルであったのにも関わらず、それを忘れてしまった点に戦前日本の弱点があった。
欧米のエリート教育を受けた人には、文学や音楽の素養の高い方が多い。例えば彼らとの会話で登場するのは、『源氏物語』やモーツァルトだ。ロジックから、メタファーへ、身体性へと教養の枠を広げていくことに意味を見出しているからだ。こうした人材は、思考が柔軟で、「学習棄却」を習慣としている。結果、更新しやすい組織=社長への権限の効率的な集中、というシステムができあがった。トタルエナジーズの担当者との何気ない会話に、欧米のモデルを見いだすことができるようになったのは、学衆としての学びの成果と思う。
では、こうした欧米のエリートに対抗するにはどうしたらいいか。
私たちは、構築されたシステムの曖昧な周辺に身を置き、小さな声に耳を傾ける必要がある。周辺の偶然=音連れに信を置き、それをもって自分たちのシステムを刷新していく。かすかな音連れの声を聴く「弱さ」こそ、欧米に対抗しうる、日本という方法なのだ。これは編集学校の学びの(本質的な)一端であると思う。
ぼくは資本主義と市場と貨幣とにファウストの末裔としてまたファウストすら超えて取り組むと宣言して離を終えた。勝負はこれからである。耳をすませて進む。
▲ブラジル・リオデジャネイロ沖のFPSO(海洋油田生産設備)。神戸さんの職場だ。
文・写真提供/神戸七郎(43[守]どろんこコクーン教室、43[破]羅甸お侠教室)
編集/角山祥道、羽根田月香
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
イシスの「指南」はあったかい――木島智子のISIS wave #58
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 木島智子さんは、56[守]に初登板する師範代の卵だ。しかし自分が師範代になるなんて思ってもいなかったと振り返る。木島さんを変えたもの […]
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 [守]学衆・板垣美玲のプロレス好きは、回答からダダモレしていた。〈ことわざ〉を擬く稽古では「孫にドロップキック」。〈見 […]
田中優子学長校話「私たちは稽古で何をしているのか」【88感門】
校話はまるで、田中優子学長と一緒に「知恵の並木道」を歩いているかのようだった。 感門之盟のクライマックスは学長校話。「講話」ではなく「校話」とは、編集学校、つまり稽古の話だ。 [守][破][離][物語][花伝所]で […]
相棒の一眼レフとカーソルと――吉田紗羽のISIS wave #56
吉田紗羽さんは、近畿大学生物理工学部の3回生。有機化学を専攻している吉田さんですが、イシス編集学校の基本コース[守]の稽古を通して、趣味や学生生活自体が、変化したといいます。どんな変化があったのでしょうか。 […]
家業を継いだと同時にISIS編集学校の門をくぐった伊藤舞さん。[守][破][花]の講座を受けていくうちに出会った「あるもの」が家業最大のピンチを乗り越える支えとなりました。さてそのあるものとは? イシス […]
コメント
1~3件/3件
2025-10-02
何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)
2025-09-30
♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。
2025-09-24
初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。