着物のまにまに~時空センスの編集術 #2帯揚げ コーディネイトの方向舵 (1)

2019/10/25(金)10:30
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かさねて、あわせて、きめる。
着物にまつわる仕草はことごとく、[守]で遊ぶ編集的方法だ。
システムエンジニアにして着物エディターである
イシス編集学校師範の森山智子が、
和装に忍んだシステム編集をひもとく。

 


 着物はオートクチュールのドレスとは全く違い、コーディネイトがすべてを語ります。ですから、要素のひとつである小物をおろそかにするなんてあり得ません。小物にはすべて機能があるため、小物なしでは着物が成り立たないのです。着付け面での機能を果たしながら、同時に装飾面での機能も問われる。その中でも私が特に、一番に気になっていて、こだわっているのは? ――帯揚げ。

 

 初めに、位置についておさらいしましょう。その名の通り、背中のお太鼓をかつぎ揚げ、支えるという機能を担って、背中から脇を通り、ちょうど胸がドキドキするあたりで結ばれます。最近の着付けでは、背中の帯の結び目(ねじり目)を支えながらお太鼓を揚げているのは、お太鼓枕とそれについている紐なのですが、帯揚げはちょっと色気のない枕や紐を優雅につつんでくれます。

 

 着付けによっては、帯の中に帯揚げをぎゅうぎゅう仕舞い込んでしまうことがあります。確かに、見える要素が一つなくなることで、そのぶん組み合わせの数も少なくなり、考える対象も減らせます。楽にはなるかもしれませんが、同時に楽しみも広がりも奪ってしまうような気がします。帯揚げは、適度に見えるようにするのがいい。脇を固めて、胸に収まる。帯揚げは、狙うイメージに向かうための方向舵なのです。

 

 続きはまた。

 



◆要素・機能・属性【ようそ・きのう・ぞくせい】
 編集的世界観では、森羅万象がシステムとなる。
 全てのシステムには、要素・機能・属性が備わっている。
 シンプルな構造に見えるコップでも、
 口のあたる縁の部分なのか、手で握る胴の部分なのか、
 どの「要素」かによって、その厚みや硬度といった
 「属性」は微妙に変化していく。
 つまりコップもまた、立派なシステムと見なせるのだ。
 では、コップの「機能」とは?
 それをありったけ並べるお題が、
 イシス編集道の劈頭を飾っている。

  • 森山智子

    編集的先達:和泉式部。SE時代にシステムと着物は似ていることに気づき開眼。迷彩柄の帯にブーツを合わせる、洋服生地を帯に仕立てる等、大胆な着こなしをはんなり決める。イシスにも森山ファンは数多い。
    2025年春から多読アレゴリアの「着物コンパ倶楽部」を主宰。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。